世界中の将棋ファンのみなさんどうも!先手中飛車に勝てず苦しめられている、編集部のさめはだです!
右を見ても中飛車、左を見ても中飛車...。あれだけ流行していた中飛車も最近はめっきり姿を消してしまい、中飛車を指す人がだいぶ減った気がします。
そして、たまに指されると『おっ!きたわ!』となるのですが、記憶喪失によりすでに定跡を忘れてしまっているのでボロカスに負ける。これが将棋の難しいところでして..←だまれ
それはそうと、今回は中飛車について定跡やら歴史やら、色々とまとめました!中飛車党の人も居飛車党の人も、参考になればと思います。
【Chapter .01】初心者必見!中飛車の基礎知識
【中飛車の基礎知識】先手中飛車とは?
まずは先手番の中飛車、『先手中飛車』について簡単に説明をしておきましょう。現代の将棋界で『先手中飛車』と呼ばれる戦型は、一般的に角道を止めない中飛車全般を指します。序盤の駒組みがわかりやすく、攻めが決まった時の破壊力は抜群。振り飛車党のエース戦法として高い人気を誇り、現在でも振り飛車の中では1、2を争う人気戦法なのです。
【中飛車の基礎知識】ゴキゲン中飛車とは?
近藤正和七段創案の『ゴキゲン中飛車戦法』。美濃囲いの堅さと低い陣形を頼りに、大駒をさばいて勝負する戦いが魅力的。後手番でありながら主導権を握れる振り飛車として、プロアマ問わず一時期大流行した戦法です。現在は居飛車側に有力な対策がいくつかあり、ゴキゲン中飛車党に苦労が多い状況が続いています。
【Chapter.02】中飛車の歴史
ツノ銀中飛車の歴史
【ツノ銀中飛車の歴史(1)】ツノ銀中飛車の誕生(1950年)
中飛車戦法はかつて、下手の中飛車と軽視された素人の戦法でした。木村義雄十四世名人の時代は相掛かりの将棋が中心で、中飛車はおろか振り飛車自体が指されていなかったのです。プロは指さないアマチュアが楽しむための戦法。プロには通用しない戦法。これまで評価が低かった中飛車をプロでも通用する『ツノ銀中飛車』へと改良したのが松田茂役九段です。
【ツノ銀中飛車の歴史(2)】二大定跡のひとつ☗4六金戦法(1966年)
1966年5月18日の名人戦第4局☗升田幸三九段ー☖大山康晴名人戦。大山名人得意の中飛車に対して、先手の作戦は現代ではまず見かけることがない『☗4六金戦法』と呼ばれる急戦策。加藤次郎名誉九段創案の作戦で、昭和時代の中飛車対策はこの☗4六金戦法と☗3八飛戦法が二大定跡であった。
【ツノ銀中飛車の歴史(3)】二大定跡のひとつ加藤流☗3八飛戦法(1968年)
1968年12月23日の十段戦第6局☗加藤一二三八段ー☖大山康晴十段戦。当時無敵を誇っていた大山中飛車に対して、先手の作戦は加藤八段が得意としていた袖飛車急戦策。守りの金を前線に繰り出していく☗4六金戦法とは異なり、こちらは金銀四枚で中央を守るため攻撃力は低め。余談だが先手の囲いには『菱囲い』と言う名がある。
【ツノ銀中飛車の歴史(4)】玉頭位取り戦法(1971年)
1971年7月26日の王位戦第1局☗中原誠棋聖ー☖大山康晴王位戦。1970年代に入ると対振り飛車戦において居飛車側の作戦選択に変化が出始める。これまでは急戦系の作戦が主流だったのだが、この頃から玉頭位取りや5筋位取り、美濃囲い、居飛車穴熊などの持久戦系の作戦が増え始めたのだ。
【ツノ銀中飛車の歴史(5)】居飛車穴熊(1986年)
1980年代になると、振り飛車の対抗策として居飛車穴熊が流行し始めます。これまでツノ銀中飛車に対して居飛車は急戦策が主流で、これには中飛車も互角に渡り合っていました。しかし、穴熊に対しては玉の堅さで劣る中飛車が苦戦を強いられ、ツノ銀中飛車は衰退の一途を辿る。
ゴキゲン中飛車の歴史
【中飛車の歴史(1)】新戦法ゴキゲン中飛車の登場(1996年)
ツノ銀中飛車の衰退から数年が経った1996年、主力戦法を失った中飛車業界に新戦法『ゴキゲン中飛車』が誕生します。創始者は同年10月にプロデビューしたばかりの近藤正和四段(当時)。いつもニコニコしている性格から『ゴキゲン中飛車』の名が付いた。数年後にはゴキゲン中飛車の大流行が訪れ、一大旋風を巻き起こす事になる。
【中飛車の歴史(2)】ゴキ中対策の特効薬『丸山ワクチン』(1997年)
近藤流のゴキゲン中飛車に対して、居飛車の最初の対策が『丸山ワクチン』と呼ばれる角交換をする指し方です。丸山忠久九段が最初に指し始め、1997年〜1998年の間に近藤四段のゴキゲン中飛車を相手に3連勝を飾ったことで注目を浴びた。
【中飛車の歴史(3)】超急戦をめぐる研究合戦(2006年)
2006年4月25日の名人戦第2局☗森内俊之名人ー☖谷川浩司九段戦。ゴキゲン中飛車の定跡で最も激しくなるのが超急戦と呼ばれる戦型。2筋の歩を交換したい居飛車側と、その動きを咎めようとする振り飛車側の主張がぶつかり合う戦いになる。2000年台には多くの実戦が積み重ねられ、中には詰みまで研究されている変化もあると言う。
【中飛車の歴史(4)】超速の原型となる将棋(2008年)
2008年8月20日の順位戦A級☗郷田真隆九段ー☖佐藤康光棋王戦。超速の定跡型ではよく見かける図面だが、この時代にはまだ超速は誕生していない。先手の考慮時間を見ると☗3七銀に24分、☗4六銀に60分、☗6六銀にも78分を注ぎ込んでおり、実戦での深い読みの上で辿り着いた局面である。実戦は71手で先手が快勝。
【中飛車の歴史(5)】☗7八金型持久戦の再評価(2009年)
2009年3月8日の棋王戦☗佐藤康光棋王ー☖久保利明八段戦。ゴキゲン中飛車対策としては初期の頃に指されていた☗7八金型だが、この年になぜか再評価されて人気が急騰。持久戦策として優秀だったはずの丸山ワクチンの勝率が悪くなったことが理由で、同じ持久戦策としてこの☗7八金型に白羽の矢が立ったと言うわけである。
【中飛車の歴史(6)】ゴキゲン中飛車に居飛車穴熊(2009年)
2009年5月8日の竜王戦☗豊島将之五段ー☖戸辺誠五段戦。ゴキゲン中飛車に対して居飛車穴熊に組むのは作戦負け、の定説を覆したのがこの将棋です。以降はゴキゲン中飛車対策として、居飛車穴熊は有力な作戦と認識されるようになります。
【中飛車の歴史(7)】超速☗3七銀戦法の登場(2009年)
2009年12月25日の☗深浦康市王位ー☖佐藤和俊五段戦(朝日杯)で、超速☗3七銀戦法が公式戦に初登場します。当時奨励会の三段に在籍していた星野良生五段が創案した作戦で、公式戦に登場するや否や、その優秀さが認められ瞬く間にゴキゲン中飛車対策のエース戦法へと昇格しました。後手番で勝率が5割を大きく超える振り飛車は、前にも後にもこのゴキゲン中飛車だけ。居飛車側はその対策に試行錯誤を繰り返した結果、辿り着いたのが超速
【中飛車の歴史(8)】☖ゴキゲン中飛車の最新型(2016年)
超速に押されて苦しんでいる☖ゴキゲン中飛車にも新しい指し方が登場します。図の☖4二銀型は以前からあった指し方だが、☗4五銀〜☗3四銀と歩を取られることに抵抗があるため人気がありませんでした。この作戦が見直される契機になったのが菅井竜也八段の工夫によるもので、2016年頃から後手を持って指す棋士が増えた。
先手中飛車の歴史
【先手中飛車の歴史(1)】名人戦に見る羽生四冠王の中飛車(1994年)
1994年4月11日の名人戦第1局☗羽生善治四冠ー☖米長邦雄名人戦。先手の5筋位取り中飛車に対して☖4三銀・☖6三銀型に組む形は昔からある定跡型で、1950年代の大山十五世名人の棋譜にも見られる。この構えに対して5筋から攻めるのは難しいため、先手は☗6八飛や☗7八飛と転回して別のところに争点を求めて動くことになる。
【先手中飛車の歴史(2)】戦略としての相振り三間飛車(2007年)
2007年の順位戦A級☗久保利明八段ー☖郷田真隆九段戦。初手☗5六歩からスタートする先手中飛車には、相振り飛車の三間飛車が有力なことは昔からある常識。郷田九段は純粋な居飛車党で、相振り飛車の戦いには不慣れなはず。相手の土俵であるにも関わらず採用すると言うことは、それだけ相性が抜群の作戦であると言う証拠なのである。
相振り飛車の戦型では、向かい飛車、三間飛車、四間飛車、中飛車の順に有力と考えられている。なぜ中飛車がダメなのかと言うと、5筋を攻めても相手玉に遠く響かないと言う点。飛車が邪魔で☗5八金右と上がれないなど、実際に先手側が戦いづらいのは事実。こんな苦労を強いられてまでわざわざ採用することもあるまい。と言うわけで人気が出なかったのである。
【先手中飛車の歴史(3)】2000年代の主流定跡(2009年)
2009年2月24日の王将戦第5局☗深浦康市王位ー☖羽生善治王将戦。この時代はまだ先手中飛車は流行戦型ではなく、振り飛車党の中でも二番手、三番手の戦法。後手番の対策は☖6四銀型急戦が主流で、図のような将棋が多かった。
先手中飛車の欠陥はまず、☗6六銀と上がった瞬間☖8六歩から後手に一歩交換を許してしまう点。そして☗5五歩☖同歩☗同銀と中央突破を狙って動いた瞬間、8筋で渡した歩を使って☖5八歩☗同飛☖6九角と言うカウンターがある。現在では中飛車側に打開策が発見されているが、この当時は☖6四銀型が難敵だったのだ。
【先手中飛車の歴史(4)】先手中飛車の実戦数が増加(2010年)
先手中飛車は2010年頃から採用数が増加している。その理由は石田流三間飛車の流行が関係している。石田流はご存知の通り☗7五歩☖3四歩☗7五歩からスタートする戦法。初手☗7六歩に対して☖8四歩と突かれると、登板することができないのが欠点でもある。これがどう関係しているのか?つまりこうだ。
先手石田流が流行→高い勝率を上げる→後手は対策に悩む→2手目に☖8四歩と突いて石田流を封じる→先手は石田流を控えに回して、中飛車をエース戦法に置き換える。と言う流れがある。☗7六歩に☖8四歩と突かれると石田流にはできないが、それなら☗5六歩と突いて先手中飛車を採用すれば良い。
【先手中飛車の歴史(5)】先手中飛車対居飛車穴熊(2011年)
2011年1月6日の棋王戦挑戦者決定戦☗広瀬章人王位ー☖渡辺明竜王戦。先手中飛車をエース戦法として採用するのは良いが、まず初めにぶち当たるのが居飛車穴熊である。穴熊に組まれない振り飛車じゃなければ今の時代はダメ。ゴキゲン中飛車があれほど大流行した理由もココにある。
先手中飛車は穴熊と互角以上に戦えるのだろうか。後手が居飛車穴熊を目指すとこのような図面になることが多く、類型を含めて実戦例も多い。先手は☗4五歩と仕掛けるのが定跡で、☖同歩でも☖7五歩でも先手は☗5五歩と5筋も絡めて戦いを起こす。
【中飛車の歴史(6)】先手中飛車対一直線穴熊(2012年)
2012年6月18日の順位戦A級☗谷川浩司九段ー☖渡辺明竜王戦。後手の作戦は2011年に登場した新しい穴熊の組み方で、先手に5筋の位を取らせて穴熊に組む『一直線穴熊』と呼ばれる作戦。先手の陣形がのびのびとしているため従来は後手が作戦負けと考えられていたが、堅さだけを主張に後手が戦えることがわかった。
居飛車穴熊に堅さで対抗するため、先手は☗1八香から穴熊を目指すのが主流。この作戦が出始めた初期の頃はここで☗3八飛と回り角頭を攻めていく指し方が多かったが、思ったほど成果が出ないことが判明。改良案として☗5六飛と浮き飛車にして戦う指し方が現れて現在でもこちらの指し方が主流。
【中飛車の歴史(7)】中飛車左穴熊の登場(2014年)
初手☗5六歩から始まる先手中飛車は、三間飛車に相性が悪いというのが昔からの定説です。定跡が整備されているわけではありませんが、単純な相性だけで三間飛車を採用する居飛車党も多いぐらいです。ところが2014年に登場した相振り三間飛車対策の居飛車穴熊が優秀と判明。これにより中飛車側も十分に戦えることがわかってきました。
中飛車左穴熊の有用性は、相振り飛車の三間飛車の採用数を減少させた。これで振り飛車党は初手☗5六歩を堂々と指せるようになった。2000年代には年間50局〜60局程度だった初手☗5六歩の採用数は3倍〜4倍に増加。先手中飛車の爆発的な流行につながる。
【中飛車の歴史(8)】後手居合抜き急戦(2016年)
2016年頃に登場した先手中飛車対策の新しい基本図。先手番で優秀な超速を後手番に移植した作戦で、角道を開けていないところがポイント。角道を開けずに攻めることで、角交換をさせずに角を目標に攻めることが可能になるという発想。
【中飛車の歴史(9)】☖二枚銀急戦(2018年)
2018年7月4日の王位戦第1局☗菅井竜也王位ー☖豊島将之八段戦。先手中飛車対二枚銀急戦の定跡型で、先手は図から☗4五歩☖同銀☗7五歩☖8四飛☗7四歩☖同飛☗5三歩成☖同金☗7五銀と仕掛けた。仕掛けの成否は難しいが、先手が一方的に攻勢を取れる戦いなので先手としては悪くはない。結果も先手の菅井王位が勝っている。
【先手中飛車の歴史(10)】☖角道不突左美濃の流行(2018年)
2018年8月1日の王位戦第3局☗菅井竜也王位ー☖豊島将之棋聖戦。先手の菅井王位は第1局に引き続き、得意の先手中飛車を採用。対する豊島棋聖は本局では堅さを重視する左美濃に構えた。2017年に登場した『角道不突左美濃』と呼ばれる流行の作戦である。
この作戦の後手の工夫は角道をギリギリまで保留している点。先手からの角交換を拒否する意味で、攻撃目標である角をさばかせない意味がある。自玉周辺の堅さ比べではスムーズに美濃囲いに組めない先手が不利。
【Chapter.03】☗先手中飛車の主要テーマ図
先手中飛車に対する居飛車側の有力な作戦は大きく分類すると次の4種類です。
①☖5四歩型
②二枚銀急戦
③左美濃
④一直線穴熊
⑤相振り三間飛車
【☗先手中飛車(1)】☖5四歩型①☖6四銀急戦
先手中飛車に対して、居飛車側は5筋の位を取らせる指し方が最近では多い。位取りを許さない☖5四歩型は割と古い作戦で、2000年代に主流だった指し方である。と言っても、現在でも有力と考えられていて採用数も多い。
【☗先手中飛車(2)】☖5四歩型②☖5三銀型
1990年代に多く指されていた☖5三銀型。後手はこの後☖4四歩〜☖4三金〜☖3三角と駒組みを進めて、最終的に穴熊を目指すことが多い。
【☗先手中飛車(3)】☖5四歩型③先手前田流
☖5四歩型に対して、先手から角交換する指し方も有力。前田祐司八段が最初に指し始めたことから、前田流と呼ばれる。
【☗先手中飛車(4)】後速☖7三銀戦法①☗6六銀型
先手中飛車の最新型のひとつで、後手の有力な急戦策。後手は☖3三銀〜☖4四銀と二枚目の銀を繰り出す指し方が有力で、後手番のゴキゲン中飛車対超速☗3七銀戦法のような戦いになる。
【☗先手中飛車(5)】後速☖7三銀戦法②☗6六歩型
後手の☖7三銀急戦に対して、先手は☗6六歩〜☗6七銀型で対抗する指し方も有力です。これに後手は☖7五歩☗同歩と突き捨てを入れてから☖6四銀と繰り出すのが有力な仕掛けで、後手が先攻する将棋になる。
【☗先手中飛車(6)】後速☖7三銀戦法②☗5六銀型
先手が☗5六銀型に組む指し方もないことはない。☗4五銀と出る余地がある分機動力には優れているものの、角頭に利いていないため☖7五歩の仕掛けが気になる。
【☗先手中飛車(7)】持久戦を目指す『角道不突き左美濃』
お手軽で頑丈な美濃囲いは、先手中飛車に対しても有力です。居飛車側の駒組みには2つのポイントがあり、①☖6四銀を急ぐ。②角道はギリギリまで開けない。の2つです。中飛車側は図の☖6六銀型の他に、☖6六歩・☖6七銀型も有力。
【☗先手中飛車(8)】ガチガチに固めて勝負!『一直線穴熊』
中飛車に対して居飛車が穴熊を目指す作戦。急戦系の将棋はどうしても自玉が薄くなりがちなので勝ちづらい!という方は穴熊に組もう。
【☗先手中飛車(9)】相性抜群の『相振り三間飛車』
初手に☗5六歩と突く中飛車宣言には、三間飛車に振って相振り飛車の将棋にする指し方も有力です。定跡は未整備の分野ですが、相振り飛車の戦型において中飛車は最弱という単純な相性だけで有力視されています。相振り飛車を指すのに抵抗がない人にとってはかなり有力。
相振り三間飛車に先手は、左側に玉を動かして穴熊を目指す『中飛車左穴熊』と呼ばれる指し方が優秀です。一時はこれで中飛車側が盛り返しましたが、現在は後手にも有力な『中飛車左穴熊対策』が出てきて十分戦えることがわかってきました。
【Chapter.04】☖ゴキゲン中飛車の主要テーマ
ゴキゲン中飛車の戦型では、先手の指し方によっては序盤から激しい戦いになる定跡も多い。図で☗5八金右と上がる『超急戦』と呼ばれる定跡は有名ですが、図ですぐに☗2四歩と突かれた場合の指し方は必ず覚えておきたい基本のひとつです。
ゴキゲン中飛車に対する居飛車側の有力な作戦は主に次の6つです。
①超速☗3七銀戦法
②一直線穴熊
③☗7八金型
④千鳥銀
⑤丸山ワクチン
⑥☗5八金右超急戦
この中で、①超速☗3七銀戦法は8つのテーマに分けて紹介していきます。
【☖ゴキゲン中飛車(1)】超速対☖3二金型
ゴキゲン中飛車の☖3二金型は軽いさばきを狙う指し方です。テーマ図では☗7七銀☖5六歩☗同歩☖同飛に☗5五歩と打ち、飛車を捕獲しにいく指し方が一時期よく指されていたが現在は後手良しが結論。と言うことで先手は☗5五歩を見送り、☗6六銀と出て二枚銀で抑え込みを狙う。
□テーマ1図以下の指し手
☗7七銀 ☖5六歩 ☗同 歩 ☖同 飛
☗6六銀 ☖5一飛 ☗5五銀右(次図)
先手は☗4六銀+☗6六銀の二枚銀の形から☗5五銀右と中央を制圧しにいく。左銀が出遅れている後手は二枚銀の抑え込みを見せられて息苦しく、大駒をうまくさばく手段が求められる。図から☖4二銀☗5八飛に☖2四歩と動いたのが菅井竜也八段が指した新手で、このテーマでは現在でも定跡として残る。
【☖ゴキゲン中飛車(2)】超速対☖3二銀型
ゴキゲン中飛車の☖3二銀型は金銀の連携が良いバランスの取れた好形です。超速が指され始めた2010年頃は有力と思われていましたが、1年後の2011年に決定版と言える指し方が出たことで、現在は先手有利の結論が出ている。
□テーマ2図以下の指し手
☗7七銀 ☖5六歩 ☗同 歩 ☖同 飛
☗6六銀 ☖5一飛 ☗5五銀左 ☖5四歩
☗6六銀 ☖6四歩 ☗3五歩(次図)
テーマ2図から十数手進んだ局面。後手は交換したばかりの歩を☖5四歩と打つのでバカバカしいが、先手からの☗5四歩を防いで仕方がないところ。図で☖3五同歩☗同銀☖6五歩には☗3四歩☖2二角☗7七銀で先手有利。この定跡が決定版となっており、先手有利が確立されている。
【☖ゴキゲン中飛車(3)】超速対☖3二金型急戦
中飛車側はいつでも☖5六歩と突いて歩の交換ができる権利を持っている。歩を突くタイミングが遅すぎると抑え込まれるリスクがあるし、早すぎた場合は決戦を覚悟する必要がある。図は後手陣が☖7二玉型で仕掛ける急戦策で実戦例も多い。美濃囲いが未完成で不安は残るが、二枚銀に抑え込まれる前に戦いを起こす。
□テーマ3図以下の指し手
☗3三角成 ☖同 桂 ☗5六歩 ☖同 飛
☗3五歩 ☖同 歩 ☗3四歩 ☖7六飛
☗7七桂 ☖4五桂 ☗6八金(次図)
テーマ3図から十数手進んで図の局面。取れる桂馬を取らずに金を上がっておくのが必要な一手で、次に☗4五銀と桂馬を取る手を見せる。ここで①☖3六歩と②☖3六角が実戦で指されていて、①☖3六歩は☗4五銀☖3七歩成☗同桂☖1五角、②☖3六角は☗2四歩☖同歩☗3三歩成☖同金☗5三角がプロの実戦で現れた進行。
【☖ゴキゲン中飛車(4)】超速対☖3二銀型急戦
中飛車が☖7二玉型で急戦を仕掛ける将棋では、図の☖3二銀型の方が実戦例が多い。☗3三角成に☖同銀と形よく応じられるのが☖3二金型との違いで、☗3三角成☖同銀☗5六歩☖同飛と進んだ局面で先手には幾つかの選択肢がある。主な候補手は①☗6五角、②☗2四歩☖同歩☗3五歩☖同歩☗2三角、③☗6八銀。
□テーマ4図以下の指し手
☗3三角成 ☖同 銀 ☗5六歩 ☖同 歩
☗6五角 ☖5一飛 ☗5八金左 ☖7四角
☗4三角成 ☖4二金(次図)
テーマ4図から☗3三角成☖同銀☗5六歩☖同飛☗6五角と進むのが定跡のひとつで図の局面になる。☖7四角が☗6五馬の引き場所を消している効果で先手は馬の行き場所がないので、図では☗6一馬☖同玉☗7五金として角を取り返しにいく。
【☖ゴキゲン中飛車(5)】超速対☖3二金・☖4二銀型急戦
超速に対して中飛車側が☖5六歩と動くタイミングは様々ある。図は後手が☖3二金と☖4二銀の2手を優先した駒組みで☖5六歩と突く指し方。後手陣は左辺が堅く、図で☗3三角成☖同銀☗5六歩☖同飛に☗6五角と打つ反撃を消している意味がある。
□テーマ5図以下の指し手
☗3三角成 ☖同 銀 ☗5六歩 ☖同 飛
☗5五歩 ☖7六飛 ☗7七銀 ☖7四飛
☗6八金 ☖6二銀 ☗5七金(次図)
先手陣が☗6八銀型の場合は、☗5五歩と打って飛車を捕獲しにいく指し方が有力。途中後手の☖6二銀は☗5三角から馬作りを防いだ意味。先手はこの後☗5六角〜☗6六金と飛車を圧迫していく構想で、狙いがはっきりしている。後手は飛車が取られる未来が確定しているので苦労が多い。
【☖ゴキゲン中飛車(6)】超速対銀対抗☖4四銀型
超速の骨子である早繰り銀に対抗して、中飛車側が☖4四銀型を急ぐ形を『銀対抗』と呼びます。角頭を銀で守って守備力が高い反面、角銀の配置が重く自分から動けないところが難点。現在の超速対策では主流の作戦で、採用率が最も高い指し方です。
ゴキゲン中飛車の銀対抗型に対して、居飛車は①二枚銀急戦と②居飛車穴熊の2つの有力な指し方がある。最初の頃は穴熊に組む指し方が多かったが、急戦で抑え込む定跡の研究が進むとかなり有力であることがわかってきた。
【☖ゴキゲン中飛車(7)】超速対菅井流☖4四歩型
超速の骨子である☗3七銀に対して☖4四歩(図)と突くのが『菅井流』と呼ばれる作戦です。2011年〜2012年頃によく指されていた形ですが、先手に有力な対策が現れたことですぐに下火になった。図で自然な☗4六銀には☖4五歩☗同銀☖3二金☗3四銀☖5六歩の決戦策が菅井流の骨子となるはずの順なのだが...。
□テーマ7図以下の指し手
☗4六銀 ☖4五歩 ☗同 銀 ☖3二金
☗7八玉 ☖4三金 ☗3八飛(次図)
菅井流は先手の銀を呼び込んで、その銀の捕獲を狙うのが骨子となる作戦。後手の狙いだけを示すと、☖4二角〜☖3三桂と進めて4五の銀を捕獲する順が理想的な展開となる。ところがである。この菅井流の主眼となる指し方が無理筋とわかる。つまり図の☗3八飛と回る手が後手の野望を打ち砕く手で、後手は構想自体が破綻していると言う。
【☖ゴキゲン中飛車(8)】超速対☖4二銀型
ゴキゲン中飛車の☖4二銀型は、先手の銀を呼び込んでカウンターを狙う指し方です。☖3二銀型との違いは、次に☖5三銀〜☖5四銀と中央に活用できるところ。図では☗4五銀の仕掛けが有力で、☖3二金☗3四銀に①☖2二角と、②☖4四角の二つの定跡がある。
□テーマ8図以下の指し手
☗4五銀 ☖3二金 ☗3四銀 ☖4四角
☗2四歩 ☖同 歩 ☗同 飛 ☖2二歩
☗2八飛(次図)
☖4二銀型に対して先手は☗4五銀の仕掛けが有力。後手はすでに☖4二銀と上がっているため、☖4二角〜☖6四角のカウンターがないのがその理由だ。図の局面まで進むと後手は一歩損の上2筋をへこまされていい所がないようにも見える。後手の主張は先手よりも美濃囲いが堅いと言う点で、中盤のマイナスを終盤で巻き返す手腕が求められる。
【☖ゴキゲン中飛車(9)】ゴキ中退治の特効薬『丸山ワクチン』
ゴキゲン中飛車に対して角交換を挑む『丸山ワクチン』はアマチュアに人気の作戦です。先手は①角交換→②9筋の端歩を突く→③☗7八銀と上がる(図)までがワンセット。左美濃の堅陣で戦いたい方にはおすすめです。
丸山ワクチンに対して、中飛車側は向かい飛車に振り直すのがよくある指し方です。後手はこの後☖4四銀〜☖3三桂〜☖2一飛〜☖4二金と陣形を整備して隙のない好形を作り上げる。隙あらば、角交換振り飛車特有の☖2五桂ポンの仕掛けを狙っていく。
【☖ゴキゲン中飛車(10)】即終盤の激戦定跡『☗5八金右超急戦』
ゴキゲン中飛車で最も激しくなるのが『超急戦』と呼ばれる定跡です。終盤まで定跡化されている変化も多く、知識の差が勝負を左右することも。激しい将棋が好きな居飛車党にはおすすめ。中飛車党の方は万全の準備を心がけておこう。
超急戦の定跡型ではよく見る局面。初期の頃の定跡では図で①☗7五角、②☗1一竜〜☗6六香、③☗3三角が指されていたが、最新型は④☗1一竜〜☗3三香が有力視されている。結論が出る前に下火になったが、先手が指さないことを考えるとそれほどうまくいくイメージがないのではないかと予想できる。
【☖ゴキゲン中飛車(11)】意外と有力な愚形『☗7八金型』
振り飛車に☗7八金と上がるのは形を決めすぎて損と言われますが、ゴキゲン中飛車に対しては意外と有力です。☗7八金型の意味は簡単に言うと『☖5五歩の瞬間に☗2四歩』と言う狙い。力戦系の将棋が好きな方は試して見る価値あり。
☗7八金型で普通に駒組みを進めると、大体このような局面に進む。先手はいつでも2筋の歩を交換できる権利を持っているが、序盤で☗7八金と上がったことで玉型が堅くならないのが不満。
【☖ゴキゲン中飛車(12)】変幻自在の変化球『千鳥銀作戦』
☗3七銀〜☗4六銀と銀を出る超速に対して、☗4七銀〜☗3六銀(図)と繰り出すのが『千鳥銀』と呼ばれる作戦です。狙いは単純、次に☗4五銀〜☗3四銀と角を攻撃目標とします。自玉が薄くなりがちで、指しこなすのが難しいのが欠点。
【☖ゴキゲン中飛車(13)】堅さこそ正義!『一直線穴熊』
超速が優秀なのは知ってるけど、玉が薄くて勝ちづらい...と言う方も多いと思います。そんな居飛車党でも心配不要。ゴキゲン中飛車に対しても居飛車穴熊はとても有力なのです。難点があるとしたら、戦いの主導権を後手に握られることです。
居飛車の一直線穴熊に対して、中飛車側は☖7二飛と袖飛車で角頭を狙う指し方が多い。先手は☗8八銀とハッチを閉めてしないのが工夫で、☖7五歩☗同歩☖同銀〜☖7六歩に、☗8八角と引く余地を残している意味がある。
その他の中飛車
【中飛車の定跡その他(1)】ツノ銀中飛車
ツノ銀中飛車は昭和の時代に主流だった中飛車の定跡です。松田茂役九段が創案した作戦と伝えられ、大山康晴十五世名人の棋譜にも多く見られる。
【中飛車の定跡その他(2)】矢倉流中飛車
矢倉流中飛車は、プロ棋士の矢倉規広七段が得意としている独特の中飛車です。左銀を6四まで運ぶのが矢倉流中飛車の骨子で、居飛車に☗6六銀型を作らせた後で☖4二飛と手薄な4筋に飛車を振り直して四間飛車で戦います。