公式戦において、同一局面から立て続けに2勝を挙げた棋士がいるという...。
まずは次の図面をご覧いたきたい。
図は後手が☖5四飛と回ったところである。もう少し詳しく説明すると、図の一手前先手が☗7五角と打った手に対して、8四の飛車を5四に回ったところが図の局面である。
30年以上昔に流行った相掛かりの塚田スペシャルの変化で、ここから☗同飛☖同歩に☗4一飛と打ち込んで先手が優勢という結論が出ていたらしい。ところがである...。
1990年1月24日の竜王戦4組ランキング戦、先手泉正樹六段、後手佐藤義則七段の将棋で事件が起こった。
対局は相掛かりの出だしからお互いに浮き飛車に構え、先手から角交換をする将棋に。その後は☗5六飛→☖6二玉、☗7五角→☖5四飛と進み、冒頭で触れた問題の局面に至る。
ざっくりした説明で申し訳ないのですが、だいたい理解してもらえるだろうか。図の局面までの手数は30手、まだまだこれからの将棋に見えるが実はすでに先手が優勢だというのだ。
☗5四同飛☖同歩に☗4一飛と打ち込んだ局面。ここで後手は☖3一角と受けたのだがこの手は悪手だった。すかさず☗同飛成と飛車で取られて後手が投了となった。
図では☖同金でも☖同銀でも☗5三角打と打ち込めば後手陣は崩壊する。実戦は☗3一飛成と取られた図の局面で後手投了となり、35手でのあっけない幕切れとなった。
35手の短手数で快勝した先程の将棋から1ヶ月が過ぎた2月27日、泉正樹六段はNHK杯トーナメントの予選を戦っていた。対戦相手は宮田利男六段で、将棋は再びこの局面に進んだ。
泉正樹六段にしてみれば、1ヶ月前に指した将棋とまったく同じ局面。定跡通り☗5四同飛☖同歩☗4一飛と進んで自分が優勢なはずでは?と思っただろう。
☗5四同飛☖同歩☗4一飛。前回の将棋では☖3一角と打っていたところで宮田六段の指し手は☖5一飛。ここで変化したのだが...。
☗4二角成☖3一銀☗3二馬☖同銀☗4二飛成(投了図)...。王手銀取りが掛かったこの局面で後手の宮田六段が投了。手数は39手。
情報化が進んでいる現代では、このような事態はなかなかお目にかかれない。先手優勢の結論が出ている同一局面から、あっという間に2勝を挙げるという珍しい記録が誕生した。