横歩取り☖4五角戦法は、初心者に恐れられている奇襲戦法だ。プロの公式戦では1990年ごろを最後に現れていませんが、ネット将棋などではしばしば見かけることがある。
横歩取りを指すという人は、この戦法にはイヤな記憶があるだろうがそれも今日までにしよう。
☖4五角戦法爆殺講座、はっじまるよー!
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☖4五角戦法の基本図
まず、☖4五角戦法の基本図はこれ。ここまでの詳細な手順は省略するが、わからない人はネットで調べてください。
基本図からは、☗2四飛☖2三歩☗7七角☖8八飛成☗同角☖2四歩☗1一角成(下図)と進むのが定跡化された手順で、この局面がこの戦法の分岐点になります。
少し手数が進んでしまいましたが、基本図からは95%以上はこの局面まで進むところです。
ここが後手にとってポイントとなる局面で、主に4つの手段に分岐する。
①☖8七銀
②☖3三桂☗3六香☖6六銀
③☖3三桂☗3六香☖8七銀
④☖3三桂☗3六香☖同角☗同歩☖5四香
どの変化も最善を尽くせば先手が優勢になるのだが、正解がひとつしかない局面も多いため油断は禁物だ。
横歩取り☖4五角戦法を解説している定跡書は、羽生善治九段の「羽生の頭脳10 最新の横歩取り戦法」と飯島栄治八段の「横歩取り超急戦のすべて」がある。
今回の講座はこの2冊の内容を基盤として、AI(水匠4改)の評価値に基づいた研究を編集部でまとめたものです。
☖4五角戦法の基本図周辺の変化
基本図から☗2四飛に、いきなり☖6七角成と突っ込んでくる強襲がある。
手の良し悪しで言えば「悪し」なのだが、この戦法にとってそんなことはどうでも良いのだ。
☗同金には☖8八飛成があるが、この馬は取るしかない。後手の攻めが成功したかに思えるこの局面だが、正しく対応すれば簡単に先手が優勢にできる。
☗6七同金に後手は当然☖8八飛成としてくる。そこで先手が何を指すかだが、正解は☗2一飛成だ。2八の銀は竜の縦利きがあるので受ける必要はない。
☖8九竜の王手にも☗6九歩の底歩が鉄壁で耐えている。
後手からの攻めは☖5五桂しかないが、☗6六金と真っ直ぐ逃げるのが正解で先手が優勢だ。桂馬を4七に成りたいのだが、☖4七桂成には☗5六角が竜と成桂の両取りになり後手がまずい。
定跡書では☖5五桂には☗6八金と引く手を解説しているが、こちらの方が明快だと思う。
☖4五角戦法の分岐点
図は☖4五角と打った基本図から☗2四飛☖2三歩☗7七角☖8八飛成☗同角☖2四歩☗1一角成と進んだ局面です。ここが☖4五角戦法にとっては作戦の分岐点で、主に次の4つの手段がある。
第一の手段:☖8七銀
第二の手段:☖6六銀
第三の手段:☖3三桂☗3六香に☖8七銀
第四の手段:☖3六同角
順番に調べていきましょう。
☖8七銀の変化
この局面で単に☖8七銀と捨てる手は、1982年の王位戦第2局☗中原誠王位ー☖内藤國雄九段戦で指された手です。かつては奇襲やハメ手と言われた戦法が、ついにタイトル戦の舞台に初登場した対局です。
☖8七銀には☗7七馬が最善手とされています。以下は☖7六銀不成☗6八馬☖8八歩☗7七歩☖8九歩成☗7六歩☖9九と(下図)が定跡の進行で、先手が指せるとの結論が出ています。
図は1982年の王位戦七番勝負第2局☗中原誠王位ー☖内藤國雄九段戦の実戦の局面で、ここまで進めば確かに先手が指せますが、途中後手にも変化の余地があるので調べていきます。
先程の局面までの手順中、☗7七歩に☖6七銀成と捨ててから☗8九歩成(図)としておけばまだ難しい形勢でした。
ここで飯島八段の書籍では☗5六歩としているのですが、実際の評価値は先手が+100点ほどと微妙な形勢に...。
AIの評価値も☗8二歩や☗6四歩を最善手と推奨しているのですが、それでも評価値は先手に+250点ほどとこれまた微妙。
他にも、AIはこの局面では☗4六飛と打つのが最善手だと推奨しており、評価値も先手に+400点程となっていて☗7七歩よりは評価が高い。
この手自体は昔からプロ棋士も認知している手ではあるのですが、プロ棋士はこの手を評価していませんでした。
それはなぜかと言いますと、両取り逃げるべからずで☗4六飛には☖8九歩成☗4五飛☖9九とと進んだときに、先手の飛車が不安定で使いづらいという理由があってのこと。
少し局面を戻して、☖8七銀に対して☗同金は本当にダメか?とAIに疑問をぶつけてみましたところ、実はこの局面、AIは読みを進めていくとどの変化でも先手が優勢になります。
☗8七同金に☖7九飛☗6九香☖6七角成☗5八銀と、ここまでは一直線で進むところで、羽生の頭脳ではここで☖5八同馬☗同金☖7八銀で先手不利とされています。
ところがこの局面、AIに聞いてみると☖5八同馬は先手に+760点(先手優勢)、☖8九馬でも先手に+530点(先手有利)と形勢は先手に振れています。
まずは☖5八同馬ですが、これには☗同金☖7八銀に☗6八金と寄る手が好手で、☖8七銀不成に☗6二歩が急所で先手優勢です。
AIの評価値も☖同金で先手+900点(先手優勢)、☖同玉は先手+1000点(先手優勢)、☖同銀なら先手に+1100点(先手優勢)と、何で取っても先手優勢を示す結果となりました。
少し戻って☗5八銀に☖8九馬の変化も調べなくてはなりません。これには一度☗4八玉と上がるのが最善手です。
手番を渡された後手ですが、☖7八馬や☖7八飛成で金を取りにいくのは流石に遅く、☗2一馬〜☗1一飛と横から攻められる手が早く先手優勢。
☗4八玉には馬のラインを止める意味も兼ねて☖3三桂と跳ねておくくらいですが、今度は☗8二歩☖同銀を入れてから☗2一馬と寄る手が次の☗1一飛を見て厳しい。
後手はここで何を指すかですが、①☖9九馬、②☖4二玉、③☖2三馬、④☖4五桂、⑤☖7八馬などが考えられます。
ここから後手玉への迫り方は単純ではないのですが、
①☖9九馬には☗6三香成(+1400)先手優勢
②☖4二玉には☗6二歩☖同金☗6三香成☖同金☗7二飛(+1100)先手優勢
③☖2三馬にも☗6二歩☖同金☗6三香成☖同金☗7二飛(+1100)先手優勢
④☖4五桂には☗1一飛(+800)先手優勢
⑤☖7八馬には☗6三香成(+1500)先手優勢
でいずれも先手優勢。
☖3六同角の変化
☗3六香に対して☖同角と取ったのは、1979年の☗加藤一二三王将ー☖谷川浩司五段戦で指された手です。
駒損にはなるものの、☗3三香成の攻めを摘み取ってしまえば攻めに専念できるといった考えと思われます。
のんびりしていられない後手は狙いの☖5四香に命運を賭けます。この手は先手玉を上から直接攻める狙いで、応手によっては☖4五桂と追撃する手もあります。
先手としても受け方を間違えるとかなり際どい勝負にされてしまうのですが、正しい受け方は?
まずは平凡に☗6八玉と受ける手は自然ですが、これにはいきなり☖5七香成と成り捨てる手があります。厳密にはこれでも先手が悪くはなりませんが、一方的に攻められて怖い思いをすることになります。
先手は香車を取りますが、そこで後手の継続手は☖6九飛。金と桂の両方を守るには☗5九飛しかない(☗7九飛は☖6八銀がある)のですが、☖同飛成☗同金☖3八飛☗5八飛☖4五桂(下図)と進むと後手の攻めが決まる。
☖4五桂の王手に対して☗5六玉以外の場所に逃げると、☖5七銀で先手陣は崩壊してしまいます。☗5六玉ならまだ粘れますが、☖5八飛成☗同金☖3八飛が厳しく、玉が露出している先手はかなり勝ちづらい。
☖6九飛以下の手順中、☗3八飛に対して☗3三馬☖同金と桂馬を消してから☗5八飛と受ければまだ先手が指せる形勢でしたが、いずれにしても先手が望んで飛び込む変化ではないことに間違いはなさそうです。
局面を戻して、☖5四香に対する先手の最善手は☗8五飛です。この飛車が攻めにも受けにもよく利いていて、早くも後手は指す手が難しいという。
まず、☖5七香成は☗5八歩で後手の攻めは繋がりません。☖5六成香とバックするのはいかにもぬるいし、☖4七成香とスライドしても☗4八歩と追われてまずい。
☗8五飛には☖4五桂と飛車の利きに跳ねる手もあるにはあるのですが、これはいかにも苦し紛れに見えます。☗4五同飛☖5七香成☗5八歩に、☖6八銀☗同金☖7九飛と攻めは繋がりますが、☗6九銀☖6八成香☗同玉☖8九飛成☗7八角で先手優勢となります。
自陣角で竜を追い出しておけば先手は怖いところがなくなる。かなりの手数を進めてしまいましたが、この局面までに至る手順で変化の余地はほとんどありません。ここまで進むと先手のほぼ角得で、後手の攻めは完全に切れ筋となります。
☗8五飛に後手は指す手が難しいのですが、一度は☖2五飛と合わせる手はあります。この手が銀取りにもなっているので、先手はとりあえず☗同飛と取り再度飛車を8五に打ちます。
後手は相変わらず☖4五桂とは跳ねられないし、☗8一飛成の受けも難しい。辛い局面ですが自分からは動けないので、もたれるように指す方針で☖2六歩と伸ばしてどうか。
先手は☗8一飛成とすぐに桂馬を取る手は急ぐ必要はありません。飛車の横利きが消えた瞬間☖4五桂と跳ねてこられる手があるので、もっとプラスになる手を指した方が得ではある。というわけで一度☗6八玉と上がって☖5七香成を受けておけば盤石の体制です。
☖5四香には☗8五飛と打つ手があって後手が苦しい。ということで、香車ではなく桂馬で5七の地点を狙うのはどうか。これならば☗8五飛には☖5七桂不成で後手優勢となるが...。
桂馬には先手も5七の地点を受けるのが良さそうで、受け方としては☗6八玉の他にも☗6六馬、☗6六角、☗4六角などが考えられます。
厳密にいうと☗6八玉が最善手ではないかと思われますが、ざっくり言ってしまえばどの手でも受かる。
☗6八玉に後手は☖5七桂成といきなり飛び込んで☖6九飛という攻め筋があります。
先手からすれば良い気分ではありませんが、飛車には飛車で受け続ければ後手の攻めは切れ模様になります。手順は☗5九飛☖同飛成☗同金☖3八飛☗5八飛☖同飛成☗同玉☖3八飛☗4八飛☖3六飛成☗6六馬。
ここまで進むと後手からの厳しい攻めは見えず先手優勢がはっきりします。駒割は先手のほぼ角得なので、持久戦になれば戦力差で先手が勝ちやすい。
後手はいきなり桂馬を成り捨てても手が続かなかったので、☖5四香と力をためて次の☖5七桂成を狙います。
5七の地点を狙った単純な攻めなので簡単に受かりそうにも見えますが、単純な受け方では受からない。
正しい受け方は☗5六歩。☖同香と取らせて☗5八歩と打つ「後退の歩」の手筋で対処します。これ以外の手は、例えば☗4六角などでは5七の地点でバラバラにされて難しくなります。
☖5七銀では、☖5六同香☗5八歩に☖5七銀と捨てる歩頭銀で無理やり攻めをつなげる手もあり、いずれにしても後手は銀を捨てて暴走するしかありません。
☖5七銀には☗7九玉と逃げるのが最善で、☖5六香には☗5九歩で受かる。
打ったばかりの銀を捨てる妙手で、一段金を無理やり動かして飛車打ちのスペースを作る。
☗同金に☖5六香でいよいよ後手の攻めが繋がった。何も起きなさそうな局面から強引に手を作られ、先手としてはかなり不安ではある。
後手は攻めが切れたら終わりなので、とにかく暴れてくる。形成自体は先手優勢ですが、受け方を間違えると一瞬で逆転を許す展開に持ち込まれ、まだまだ一筋縄ではいかなそうです。
以下☗8八玉に☖8七歩☗同金☖4八飛成が一例となりますが、後手の攻めを完全に切らせるのはすでに不可能に近い。先手もどこかで反撃に打って出るよりなさそうですが、急所はどこだ...?
☖6六銀の変化
☗3六香に☖6六銀と打ったのが、1979年の☗森安秀光七段ー☖谷川浩司五段戦で指された手です。実戦はこの局面で先手の森安七段が☗6五飛と打ち、以下☖5七銀成☗5八歩☖5六角☗6三飛成☖4七角成で先手投了。わずか36手という短手数で快勝したという有名な将棋です。
飯島八段の本では「☗6五飛はあまりいい手ではない。」と書かれていますが、実際は☗6五飛自体はそれほど悪い手ではなく、☖5七銀成に対する☗5八歩が問題でした。AIの評価値も☗6五飛の局面では先手に+500点ほど振れています。
☖6六銀には☗5八金と受ける手でも先手が良くなるのですが、最善手ではないので割愛させていただきます。ここでは☖3三香成と攻め合い勝ちを目指す方が鋭いので、恐れずに踏み込んでいきます。
後手としても先手の攻めを受け切ることは難しいので、とにかく先に先手玉を寄せる順を探す必要があります。手としては☖6七銀成と☖6七角成のどちらかですがまずは銀から。
☖6七銀成を☗同金と取るのは☖7九飛が厳しく後手優勢となります。なので☖6七銀成の攻めに先手は☗3二成香☖7八成銀☗3一成香☖6七角成☗3二飛と一直線に攻める順が有力です。
☗3二飛の王手に後手は☖5二金と☖5二金打の二択ですが、持ち駒の金を使ってしまうと攻め駒が不足するので怖いようでも盤上の金で受けるのが正しい。
☗4八玉以下☖7九飛には☗5九桂、☖6九飛は☗5八銀、☖6八成銀は☗5八金打、☖5八金は☗3八玉でいずれも先手が勝勢となります。
☗3三香成に☖6七銀成といくのは、☗3二成香☖7八成銀☗3一成香と攻め合われて後手が勝てないことがわかりました。今度は☗3三香成に☖6七角成と、角の方でいく手を調べてみます。
☖6七角成には☗同金と取ってしまい、一旦は受けに回るのが正しい指し方です。先手はすぐに☗3二成香と行きたいのですが、それには☖3八飛の強手があって先手がまずい。
成銀に働きかける☗6八歩が定跡書に書かれている定跡の一手で、以下☖7九飛☗4八玉☖5七成銀☗同玉☗4九飛成☖3二成香☗同銀☖8三角と進むことになります。
少し手が進みましたが、お互いにここまで変化の余地は少ない。最後の☗8三角が玉頭を守っていて、攻めては☗4二銀☖同玉☗6一馬の寄せを狙っています。
☖先手玉はほとんど裸で危険な状況に見えますが、左右の馬と角の利きがあるおかげで意外と耐えています。後手陣は☖5四歩が急所で、この一発が入るだけで気持ちが悪い。☖5九竜の王手には☗5八金と受けるのが正しい受け方で☖5八歩と受けてしまうのは攻め味がなくなって良くありません。
☗6八歩のところで、先手は☗6九飛と受ける手もあるので紹介しておきましょう。最初に見たときは「すごい手だな。」と思ったこの手は、実はAIが示す最善の受け方なのです。
成銀を守る後手の応手は①☖6八金、②☖5七成銀、③☖8七飛、④☖6四飛の4通りですが、いずれも先手優勢を示すという結果になるという...。
①☖6八金→☗同飛☖7九飛☗6九金☖6八成銀☗同玉☖8九飛成☗7八銀(+950)先手優勢
②☖5七成銀→☗5八歩☖6八金☗同飛☖7九飛☗6九金☖6八成銀☗同玉☖8九飛成☗7八銀(+900)先手優勢
③☖8七飛→☗8八歩☖6八金☗同飛☖同成銀☗同玉☖8八飛成☗7八角(+1100)先手優勢
④☖6四飛→☗6五歩☖同飛☗7七桂☖6八金☗4八玉(+1150)先手優勢
☖3三桂☗3六香の交換を入れて☖8七銀
☖3三桂☗3六香の交換を入れてから☖8七銀と打つ変化は、1982年の☗西川慶二四段ー☖児玉考一四段戦で指された手です。
☖3三桂と☗3六香の交換を入れているのが後手の工夫で、これなら☗7七馬と引かれる手はない。
この☖8七銀には☗7九金と引いて辛抱しておきます。そこで後手は☖6七角成の一手だが、先手はどう対処するのが正解か。
☖6七角成の瞬間は先手にとってなんでもないので、先手からも☗3三香成と攻めの手が入ります。
後手は8七の銀を攻めに使えないと攻め駒が足りないので☖7八銀成が本筋です。
☖7八銀成☗同金☖同馬に、先手は一度☗4八玉と上がっておきたい。後手に手番を渡すことになりますが、この一手が入ることで安心感が格段に違くなる。
難しい局面ですが、☗6二歩と焦点に打ち込む歩が急所。この手に後手はどう応じるかですが、☖同銀は6筋が壁になるので論外。☖同玉と☖同金で攻め方が違ってくるので順番に調べていきます。
まずは☖6二同金と取る手ですが、これには☗2二馬と銀取りに寄る手が厳しい。
☖2一金には☗同馬と切って☗3一飛とせめていけば寄り筋だし、☖4一金には☗3三桂が厳しい。☖3一歩と底歩の犠打で受ける手が最善と思われますが、☗同馬☖4一金に☗1一飛で先手優勢。
次に☖6二同玉と取る手を調べていく。手順に居玉を解消されるので先手が損をしてるようにも思えますが、この場合は☗6四歩と玉頭を叩く手が痛打になる。
平凡に☖同歩は☗4二飛と打たれる手が激痛。☖5二飛で受かっているように見えますが、これには☗6三金の強手で後手陣は崩壊しています。
☗6四歩に対して☖6八飛と打ち、☗5八金に☖6四飛成と竜で歩を回収しても、今度は飛車が持ち駒にないので単純に☗4二飛の王手が厳しい。