世界中の将棋ファンのみなさんこんにちは!編集部のさめはだです。
今回は相居飛車の主要戦法のひとつである『横歩取り』について基本定跡をまとめました!しっかりと定跡を覚えていくのである!
横歩取りの基本〜駒組編〜
横歩取りの戦型は、お互いに角道を開けて飛車先の歩を交換するところからスタートします。先手が☗3四飛と横歩を取った局面が横歩取りの基本図となります。
☗3四飛に対しては☖3三角と上がるのが主流の指し方。ここで①☗3六飛と引くのは比較的穏やかな指し方で一局の将棋。②☗5八玉と上がるのが主流で、青野流と呼ばれる積極的な作戦になる。
これが従来からある横歩取りの基本図。 先手は歩得、後手は手得と歩の使える筋が多いことが主張。
飛車を引かずに☗5八玉と上がるのが、現在主流の青野流と呼ばれる指し方。先手はここから☗3六歩〜☗3七桂と攻撃形を素早く整える。
横歩取りの歴史〜昭和の定跡から現代の最新形まで〜
【横歩取りの歴史⑴】黎明期の☖3三角戦法(1969年〜)
現在主流の☖3三角戦法がプロの戦法として認知されたのは1969年のことです。当時はまだ中原囲いが誕生していなかったので、後手は金開きの形が一般的でした。
【横歩取りの歴史⑵】鏡指しの流行(1990年代〜)
1990年代になると、先手番で中住まいの陣形を採用する棋士が増える。後手の陣形を鏡に写したように真似することから「鏡指し」と呼ばれる。じっくりした展開になれば歩の枚数の差から先手が優位になると考えられ、この作戦の登場により後手は苦戦を強いられる。
【横歩取りの歴史⑶】中原囲いの登場(1992年)
鏡指しの登場により、工夫を求められる後手番が編み出した作戦が中原囲いである。中原誠十六世名人が開発した布陣で、先手の中住まいに比べると固さで上回れることを主張としている。中原囲いの公式戦初登場は1992年ごろ。タイトル戦に初登場したのは1994年の名人戦第4局☗羽生善治四冠ー☖米長邦雄名人戦のこと。
【横歩取りの歴史⑷】☖8五飛戦法の大流行(1997年〜)
1997年には横歩取りの☖8五飛戦法が登場します。中座真八段創案のこの戦法は中原囲いとの相性が抜群で、この後10年以上に渡って大流行を巻き起こしました。
【横歩取りの歴史⑸】☖7二銀新型の登場(2013年)
2013年になると現在主流の☖7二銀型の布陣が登場します。従来後手番の囲いは中原囲いが主流だったが、3筋、4筋から攻められると当たりが強い弱点があった。そこで考え出されたのがこの新型の布陣。場合によっては☖6二玉〜☖7一玉と美濃囲いに移行できる柔軟性があるのが利点。
【横歩取りの歴史⑹】☗青野流の主流時代へ(2018年頃〜現在)
現在先手番では青野流と呼ばれる指し方が主流となっている。☗3六飛〜☗2六飛の二手を省略して駒組みを進めているのが特徴で、攻撃に特化した積極的な指し方。後手が色々と試行錯誤を繰り返しているのが現状で、この先も青野流が主役の時代が続きそうである。
昭和の定跡
『☖2三歩戦法』
昭和時代の古い定跡に『☖2三歩戦法』がある。当時は横歩を取ると陣形の整備が遅れて先手が悪い、と言う考え方が一般的で、木村義雄十四世名人の時代には後手番の主流の作戦でした。公式戦では1992年頃までは指されていたが☖3三角戦法に流行が移り下火に。
『☖4五角戦法』
江戸時代の定跡書にも記述されている『☖4五角戦法』は古い歴史を持つ。将棋好きで知られる十代将軍徳川家治の棋譜にも見られる古典定跡なのである。公式戦では1978年に谷川浩司四段(当時)が採用したのが初出。初心者泣かせの奇襲戦法として有名。
『相横歩取り戦法』
お互いに横歩を取り合う『相横歩取り』戦法。横歩取りの中でも特に激しい変化になりやすい激戦定跡のひとつ。図で☗7七銀☖7四飛☗同飛☖同歩☗4六角と進むのがよくある定跡で、いきなり終盤戦に突入する。公式戦では1980年代後半から1990年代前半頃にかけてよく指されていた。
『☖3三桂戦法』
序盤から激しい変化になりやすい横歩取りの戦型において、比較的穏やかな将棋になるのが『☖3三桂戦法』です。公式戦では1990年代までは一定数指されていた。図で先手は☗5八玉と☗3六飛が有力。現代では青野流を回避する意味として時折指される。
昭和の定跡の現在地
プロの公式戦では消えた戦法となっている『☖2三歩戦法』『☖4五角戦法』『相横歩取り戦法』の3つだが、ネット将棋では割と見かける機会が多いので対策は万全にしておく必要がある。
横歩取り☖8五飛戦法の定跡
1997年には革新的な新戦法となった☖8五飛戦法が公式戦に登場します。中原誠十六世名人が考案した中原囲いとの組み合わせが相性抜群で爆発的な流行を巻き起こしました。
☖8五飛戦法①:☗5八玉・3八金型
☗5八玉・☗3八金型は最もオーソドックスな作戦です。先手陣は金銀のバランスが良く安定しているのが特徴。☗3六歩と突いた局面が後手にとっては分岐点で、①☖7三桂と②☖2五歩で作戦が分かれる。①☖7三桂は自然な活用だが、先手にも☗3七桂の活用を許すことになる。②☖2五歩は一旦飛車を抑えてから次に☖8六歩と合わせで動く狙い。
☖8五飛戦法②:☗5八玉・☗3八銀型
☖8五飛戦法に対して先手が☗3八銀型に組む指し方も有力。☗3八銀の一手で自陣が引き締まるので、☗3八金型よりも攻めの速度が一手早い。図で後手は☖3五同飛と☖7三桂の二択。2004年の名人戦七番勝負第4局☗森内俊之竜王ー☖羽生善治名人戦は図から☗☖7三桂☗3三角成☖同桂☗3四歩☖4五桂☗6六角☖2五歩☗4六飛☖6五桂と進んでいる。
☖8五飛戦法③:☗6八玉型
☖8五飛戦法に対して先手が☗6八玉・3八銀型に組む将棋も多く指されている。図で後手は☖7五歩と☖5五飛が有力。☖7五歩には☗3三角成☖同桂☗3五歩☖2五歩☗1六飛☖8四飛☗3四歩☖同飛☗5六角が定跡手順。☖5五飛には☗4五歩☖5四飛☗3三角成☖同桂☗6六歩と進むのが定跡で、どちらの変化も終盤まで定跡化されている。
☖8五飛戦法④:山崎流
山崎隆之八段考案の☖8五飛戦法対策で、山崎流と呼ばれる作戦。2000年〜2003年頃までよく指されていた形。先手はギリギリまで☗8七歩を保留することで、持ち歩3枚を攻めに使おうという構想がある。図で後手の候補手は①☖6二銀、②☖5一金、③☖8四飛の3通り。
☖8五飛戦法⑤:☗7七桂型
☖8五飛戦法に対して、角交換から☗7七桂と跳ねる指し方もある。☖8五飛戦法対策としてはメジャーではないものの、有力な対策としてタイトル戦でも数多く登場している。有名な将棋では2017年の竜王戦挑決第1局☗羽生三冠☖松尾八段戦がある。羽生九段が永世竜王の資格を獲得し、永世七冠誕生の足掛かりとなった将棋である。
☖8五飛戦法⑥:新山崎流
☖8五飛戦法の新たな対策として現れたのが図の新山崎流の布陣。玉の囲いは☗4八銀の一手で済ませて、颯爽と攻めに掛かる超攻撃的陣形である。考案者は関西の山崎隆之八段で、☖8五飛戦法対策の決定版とまで言われていた。図で後手は☖7四歩と☖8六歩の二択。
☖8五飛戦法⑦:☖8五飛戦法+☖5二玉型中原囲い
新山崎流の破壊力は凄まじく、後手は対策を求められる状況。新山崎流による3筋の桂頭攻めの威力を緩和するべく、中原囲いの骨格はそのままに玉の位置を4一から5二にする工夫を編み出した。発案者は松尾歩八段。先手は新山崎流の布陣を捨てて、基本の☗5八玉・3八金型に戻って新たなアイデアを練り直す。
☖8五飛戦法⑧:☗7七角型
☖5二玉型中原囲いを採用した☖8五飛戦法に対して、先手はオーソドックスな☗5八玉・3八金型も有力。そんな中2011年頃から新たな有力な指し方が出てきた。早々に☗7七角と上がり、☗6八銀〜☗6九玉(図)と固め、ここからさらに☗5九金〜☗4八銀とガチガチに固める。
☖8五飛戦法⑨:☖8四飛+☖5二玉型中原囲い
先手の☗7七角型への対抗策として出てきたのが、図の☖8四飛・5二玉型だ。後手は☖8五飛戦法にこだわらずかつてのように☖8四飛と引き、☖5二玉型の中原囲いとの組み合わせを編み出した。旧型の☖8四飛・4一玉型の中原囲いとの違いは玉の位置だけだが、これがどう影響するか。
☖8五飛戦法の現在地
一大旋風を巻き起こした☖8五飛戦法ですが、現在はほとんど見かけることはなく過去の戦法となっている。先手番の有力な対策は『☗3八銀型』『☗6八玉型』『☗7七角型』など様々。
☖7二銀型の登場(2013年)
2013年頃になると☖7二銀型の布陣が指され始めます。中原囲いに比べ金銀の密着度が低いので囲いは薄いのですが、金銀の連携が良いのが特徴。最初は異様に見える囲いでしたが、段々と受け入れられるようになり次第に主流の陣形となった。
☖7二銀型①:☖2四飛ぶつけ作戦
☖7二銀型が登場してから間もない2013年の竜王戦挑戦者決定戦で、郷田真隆九段が指して注目されるようになったのが『☖2四飛ぶつけ』と呼ばれる指し方。
☗2四同飛☖同銀に☗8六歩と突くのが最新形で、この後先手は☗8五歩〜☗8四歩と伸ばしていくのが遅く見えるが厳しい。2014年から2015年頃に掛けて流行した定跡。飛車を打ち込む隙がない後手は、このような大胆な仕掛けを可能にした。
☖7二銀型②:斎藤流☖8六歩の合わせ
先ほど紹介した飛車をぶつける作戦が先手良しの向きが強くなってくると、1筋の歩を伸ばす待機策が増え始めました。先手が☗3六歩と突くのを待ち、その瞬間に☗8六歩と合わせて動く狙い。斎藤慎太郎八段が最初に指したことから『斎藤流』とも呼ばれる。
飛車の横利きが消えた瞬間に☖8六歩と動くのは手筋。☗同歩☖同飛に☗8七歩なら☖7六飛と横歩を取り返すことができる。図では☗同歩☖同飛☗3五歩☖8八飛成☗同銀☖5五角打と進むのが定跡で、激しい終盤戦に突入する。
☖7二銀型③:斎藤流回避策☗7七角型
斎藤流は2015年から2016年に掛けて多くの実戦が積み重ねられました。その結果☖8六歩と動かれる展開は先手としては嫌という結論に。と言うことで新たに出てきた指し方が☗7七角と様子を見る手である。
☖7二銀型④:☗3八銀型
先手は☗3八銀型に構える指し方も多く指されています。☗3八銀型は金銀の連携が良く、大駒の打ち込みに強いため、後手も飛車ぶつけ作戦や斎藤流の仕掛けは無理。図ではいきなり☖7五歩と突く手が定跡で、以下☗3五歩☖7六歩☗3七桂と進むことが多い。
☖7二銀型⑤:☗6八玉型
先手の☗6八玉型も横歩取りではよく見る構え。☗5八玉型とどちらが良いかは難しい。この後は☗5九金と寄る形がよく指されていて、部分的には中原囲いと同じ駒組みになる。場合によっては☗3八金と反対側に金を上がり、☗5八玉と戻って中住まいに組み替える構想もある。
☖7二銀型⑥:☖6二玉型ー美濃囲いに組む構想ー
後手は☖5二玉と上がる形が多いのですが、☖6二玉から☖5一玉と美濃囲いに囲いにいく指し方もあります。中住まいに比べて戦場から玉が遠く、安心感があるのが特徴。
普通の横歩取り最前線
青野流や勇気流ではない『普通の横歩取り』も一定数指されている。対して後手は☖7二銀型に組む将棋がほとんどで、一局の将棋になる。
青野流☗5八玉 vs 後手の主要な対策
先手番の従来の指し方は、☗3六飛〜☗2六飛と飛車の位置を安定させてから自陣の駒を整備するのが一般的でした。飛車の動きを省略して☗5八玉と上がり、☗3六歩〜☗3七桂と桂馬の活用を急ぐ発想は斬新で、創始者の青野照市九段の名前をとって「青野流」と呼ばれている。現在横歩取りの先手番では最有力と考えられている優秀な作戦。
青野流①ー⑴:中原囲い
青野流に対して後手が中原囲いで対抗する指し方。2002年の☗谷川浩司九段ー☖羽生善治王位戦(王位戦第2局)は図の局面になっている。
青野流①ー⑵:中原囲い(☖4二玉型)
通常の中原囲いと違い☖4二玉型は上部からの当たりが強いデメリットがある。その反面☗4五桂の仕掛けがある青野流に対しては5三の地点を玉自らでカバーしている意味がある。
青野流②ー⑴:☖8二飛型で☖3三銀
☖8二飛型で☖3三銀とぶつける定跡。、青野流が指され始めた初期の頃に有力と考えられていた作戦です。飛車を自陣に引いて安定させておきカウンターを狙う構想で、☗3七桂に☖8八角成☗同銀☖3三銀☗3五飛☖4四角と進むのが想定手順で、こうなれば後手やれる。
青野流②ー⑵:☖8二飛型で☖2六歩
☖8二飛型で☖2六歩と垂らす指し方は青野流対策の最新形のひとつ。先手はここで①☗3七桂、②☗3八銀、③☗3八金が有力。藤井聡太竜王・名人は③☗3八金を採用する傾向がある。
青野流③ー⑴:☖5二玉型急戦(☖2六歩なし)
青野流では有名な定跡のひとつ。☖7七角成と☖1九角成の両狙いで先手が忙しい。先手は☗2二歩と打つのが定跡で、☖3三桂☗2一歩成☖4二銀☗2三歩☖同金☗8四飛と進むのが定跡。ネット将棋でも結構見かけるの形なので対策は万全にしておこう。
青野流③ー⑵:☖5二玉型急戦(☖2六歩あり)
先ほど紹介した定跡に、☖2六歩と☗3八銀の交換が入っているパターン。先程と同様☗2二歩☖3三桂☗2一歩成☖4二銀と進むのが定跡だが、今度は☗2三歩を打たず単に☗8四飛と回るのが定跡。勝敗に直結する変化なので、必ず覚えておきたい定跡。
青野流④:☖5二玉型〜飛車交換の同型
青野流の有名な同型定跡。先手の手番で①☗2四歩と②☗3七桂の二つが有力。①☗2四歩に☖2二歩と受ける手には☗8三飛と打つのが定跡。②☗3七桂は自然な活用で攻撃的な手。☖7七角成☗同桂☖8六歩☗8八歩☖6四角☗3八銀☖2八飛と進むのがよくある定跡。
青野流⑤:☖5二玉型〜飛車銀交換の定跡
後手が8八の地点で角交換する指し方。先手は☗7七角が普通の受け方だが、☖7六飛☗2二歩☖3三桂☗2一歩成☖4二銀☗8四飛☖2八角成で後手良し。よって図では☗8七銀が主流の受け方で、☖同飛成☗同金☖9九角成で勝負。☗飛と☖銀香の交換で先手陣が乱されるが形勢は難解。
青野流⑥:☖8五飛型
青野流に対しては☖8五飛と引く手もあります。かつて大流行した☖8五飛戦法が思い浮かぶところですが、今回は思想が違ってきます。先手は☗3六歩と突いて桂馬の活用を見る手が自然ですが、そこで☖2五飛と回るのが後手の狙い。
青野流⑦:☖6二玉+☖8二歩型
☖8二歩は一見するとかなり不自然で捻った指し方。一言で言うと☖8八飛成〜☖5五角打の筋を敢行した時に、☖8五飛の攻防手に備えた意味がある。8筋に歩が使えなくなるデメリットも大きいが、いかにも研究してますよ、と言う感じの作戦。
青野流⑧:飯島流の定跡
飯島栄治八段考案の青野流対策の最新形のひとつ。☖2二歩で角のラインをシャットアウトしているので守備力は高い。図で☗3八銀☖7二銀☗9六歩と進むのがよくある定跡。後手は角交換から☖2八角の筋が成立するかどうかが生命線となる。
青野流⑨:屋敷流☖2三金型
続いては屋敷伸之九段が最初に指した『屋敷流』を紹介しよう!屋敷流を目指すにはまず☖2三金(図)と、先手の飛車にアタックします。飛車を切るのはまだ早いので、先手は一旦☗3五飛と逃げるのですが、そこで一度☖5一金と寄っておくのが屋敷流。
青野流対策の最前線
近年の『青野流』は公式戦での先手勝率が6割を超える優秀な作戦。後手がかなり苦しいのが現状である。現在後手番で有力視されている青野流対策は『☖5二玉型の同型』『☖8二飛型で☖2六歩』『飯島流』の3つ。
勇気流☗6八玉 vs 後手の主要な対策
佐々木勇気八段創案の「勇気流」と呼ばれる指し方。青野流とは玉の位置が1マス違うだけですが全然違った展開になる。青野流の人気に押されて最近はめっきり姿を見なくなってしまった感がある勇気流ではあるが、有力であることは間違いない。
勇気流①:☖2七角の変化
勇気流の基本変化のひとつ。先手番で勇気流を指すに当たっては、この変化を押さえておく必要があります。馬を作れるので後手が良さそうに見えますが、公式戦での実戦例は先手の3戦全勝となっている。図では☗3八銀☖4五角成☗2四飛と進むのが定跡で先手が指せる。
勇気流②:☖8二飛型+中原囲い
勇気流に対して後手が普通に陣形を整備すると、この図面になる可能性は結構高い。先手側のポイントは☗8七歩を保留していること。☖8六歩の垂らしには☗8五歩と打って受かる。☗3五飛型は、将来☗2五飛と回る手を見ており、また☖2三銀や☖3三銀の当たりを避けている意味がある。反面、飛車が四段目から動いたことで後手が☗7四歩と突きやすくなっているなど一長一短。
勇気流③:☖8二飛〜☖2三銀の変化
☖8二飛と引いて飛車を安定させておき、☖2三銀と上がり先手の飛車を追う指し方もある。先手はまだ飛車を切るには早いので☗3五飛と引くのですが、後手は☖3四歩と打ってさらに飛車を追う。先手は飛車をどこに逃げるのがよいか。候補手は☗2五飛、☗6五飛、☗7五飛の三択。
勇気流④:☖8二飛〜☖3三銀の変化
基本図から☖2二銀☗3六歩☖8二飛☗3七桂☖8八角成☗同銀☖3三銀と進んで図の局面。不安定な飛車を攻撃目標にして銀でアタック!☗3五飛と引く手には☖4四角を用意している。図では自然に見える☗3五飛は疑問手。先手の最善手は一度☗8三歩と叩く手で、☖同飛☗8四歩☖8二飛☗3五飛が定跡。
勇気流⑤:☖3三金型
勇気流の基本図から☖8二飛☗3六歩☖8八角成☗同銀☖3三金と進んで図の局面。飛車を二段目に引き上げて☖3三金としたことで後手の狙いが見えてくる。図から☗3五飛に☖4四角と打つのが後手の狙い。飛車取りと☖8八角成の両狙いで厳しいが、☗8三歩☖同飛と一度叩いてから☗6六角と打つのが定跡。
勇気流⑥:☖8五飛型
☖8五飛は次に☖2五飛と転回する手を見ている。場合によっては☖6二玉〜☖7二玉としてひねり飛車のような駒組みも視野に入れている。図の☖8五飛に対して先手は☗3六歩〜☗3七桂と桂馬の活用を急ぐ指し方が自然。図で☗7七桂とすぐに跳ねる手もある。
勇気流⑦:☖5二玉〜☖7六飛の変化
勇気流の基本図から☖5二玉☗3六歩の交換を入れてから☖7六飛と横歩を取り返す指し方。先手☗3七桂と跳ねる手が普通で、そこで後手は☖7四飛とぶつけるのがよくある定跡。☗同飛☖同歩☗3八銀に☖2八飛が前例の多い進行。
勇気流⑧:☖6二玉〜☖8二歩の変化
☖6二玉と上がるのは横歩取りではたまに見かける手。ただし美濃囲いを目指す構想ではなく、あらかじめ3筋方面から遠ざかっている意味が強い。☖8二歩と打つ手は☗8四飛などの先受けの意味。図で自然な☗3七桂の活用には☖8八飛成〜☖5五角打の狙いがある。
勇気流⑨:すぐに☖7六飛の変化
勇気流に対してはすぐに横歩を取る手も有力。図で先手は①☗3六歩と②☗8四飛の二択。①☗3六歩は桂馬の活用を見て自然な手。後手は☖8六飛と戻るのが定跡。②☗8四飛は後手に☖8二歩と打たせる狙い。☗3三角成☖同金☗5八玉が定跡。
勇気流の現在地
プロの将棋に詳しい将棋ファンはご存知かも知れませんが、最近は『勇気流』を採用する棋士はあまりいません。その理由は『青野流』の方がより優秀な作戦であると言う認識が強いからです。
その他のマイナー戦法&奇襲戦法
☖4二玉戦法
☖4二玉と上がる指し方は、2020年に船江恒平六段が指し始めたのをきっかけに採用数が増えている形。『青野流』回避策で指されている作戦。図で☗3六飛には☖3三角と上がり青野流を回避できる。
小堀流☖4二玉戦法
飛車先の歩の交換をせず☖4二玉と上がる手は、明治生まれの棋士である小堀清一九段が得意としていた指し方で『小堀流』と呼ばれている。図で☗3四飛なら☖8八角成☗同銀☖2二銀とするのが小堀流。
松尾流☖5二玉戦法
さっき紹介した小堀流の☖5二玉型バージョン。初出は2023年5月19日で、最初に指したのは松尾歩八段である。飛車先の歩交換を後回しにすることで、青野流の速攻に対応しやすくしている意味がある。
☖ノーガード戦法
横歩取りの後手番で☖3二金と上がる手を省略して☖8六歩と仕掛ける急戦がある。図で☗同歩☖同飛☗2四歩☖同歩☗同飛と進んだときに、☖8八角成〜☖3三角とするのが狙い。
☖4一玉戦法
☖4一玉戦法は江戸時代の棋譜にも見られる古典定跡。現代ではハメ手定跡として知られていて、図で☗2四飛なら後手の術中にハマる。手順は☖3八歩☗同銀☖8八角成☗同銀☖3三角が狙い。
☖3三角戦法
☖3三角戦法というネーミングだがこちらはハメ手で、内藤流の☖3三角戦法とは意味が異なる。図の☖3三角は、2二の角が動いたのではなく角交換後に☖3三角と打ったもの。先手はひとまず二枚替えの筋を受ける必要があり☗7七角と☗7七桂が有力。
☖4四角戦法
☖4四角戦法は横歩取りのハメ手定跡のひとつ。先手は☖8八角成からの二枚替えの筋を受ける必要があるのですが①☗7七角、②☗7七桂、③☗8七歩、どれが正解か考えて欲しい。ネット将棋ではたまーに見かける意味不明な作戦。
竹部スペシャル
女流棋士の竹部さゆり女流四段が愛用する作戦で、通称『竹部スペシャル』と呼ばれる。乱戦に持ち込めれば成功(本人談)だが、正確に指されると先手苦戦に陥る。☖3三同桂には☗7七角打を角を重ねて打つのが継続手。
☗7五角戦法
横歩取りマイナー戦法のひとつである☗7五角戦法。初見なら95%以上の人は☖8八飛成〜☖5二玉とするだろう!だがそれで後手が悪くなるわけではないので奇襲としては弱め。先手番でわざわざ採用する価値は低い。
☖4四歩戦法
☖4四歩戦法は富山県のアマ強豪、中平寧さんが電子書籍で紹介されている作戦。横歩取り特有の空中戦が苦手という人向けの持久戦作で、角道を止めることで大駒交換を避けてゆっくりした将棋に誘導することができる。らしい。そもそも横歩取りが苦手なら雁木とかにすれば良いのでは?
横歩を取らない横歩取り
先手番で横歩を取らない指し方もあるので紹介していきます。上の図は後手に横歩を取らせる指し方。先手が1筋の端歩に一手掛けているため、先手と後手が入れ替わったような駒組みに進む形になる。
最近では2024年の名人戦で豊島将之九段がこの形を採用した。端歩の違いひとつで成否が入れ替わる定跡もあるので慎重な判断が必要だ。
高橋流☗2八飛
先手番で横歩を取らず☗2八飛と深く引き上げる指し方。横歩取りを得意とされている高橋道雄九段が連採していた作戦である。図で後手は☖7六飛と横歩を取るのが自然で、一局の将棋になる。
稲葉流☖2五歩
横歩を取らず飛車を引く指し方では☗2六飛と中段に引く手もある。力戦型の将棋にしたい人が採用する作戦で、プロ棋士では藤本渚五段がよく指している形でもある。☗2六飛に後手は☖8五飛と引き、☗8七歩に☖2五歩(図)が稲葉流。
☗5八玉戦法
横歩を取らずに☗5八玉と上がる指し方。公式戦で初めて指したのは佐藤康光九段である。変化球を投げられた後手は何を指すか悩ましい局面。実戦例の多い手は☖8四飛で、以下☗2二角成☖同銀☗6六角☖8二飛☗8三歩☖5二飛がよくある定跡。
☗6八玉戦法
さっき紹介した☗5八玉戦法の兄弟。☗3四飛と☖3三角の交換が入っていれば『勇気流』の基本図に合流するのだが...。大平武洋六段の著書『横歩取り☗5八玉&☗6八玉戦法』で詳しく紹介されているので気になる方はポチってください。
都成流☗7八金省略型
☗7八金の一手すら省略すると言う奇抜な指し方。公式戦では2016年に都成竜馬七段が初めて指している。図で☖8八角成〜☖3三角の両取りは☗2一飛成☖8八角成☗7七角で先手良し。図では☖5二玉、☖4一玉、☖8六歩などが考えられる手でどれも一局。
ー終わりにー
横歩取りは恐くない!