向かい飛車を解説しよう。
向かい飛車の基本
【向かい飛車の基本(1)】☖角道クローズ型向かい飛車
角道クローズ型の向かい飛車は基本的に後手番で採用されるケースが多い作戦です。☖4四歩と角道を止めてから向かい飛車に振るのが基本で、角交換を避けて穏やかな序盤戦にします。
【向かい飛車の基本(2)】相性が良い美濃囲い
向かい飛車に振った後は美濃囲いに組むのがおすすめです。穴熊まで囲ってしまうのは自陣に隙が生まれるので、向かい飛車との相性があまり良くありません。
【向かい飛車の基本(3)】先手は美濃囲いが無難
向かい飛車に対して先手は美濃囲いに組むのが無難です。穴熊を目指すのは離れ駒ができやすく、後手から動かれると主導権を握られてしまうからです。
【向かい飛車の基本(4)】2筋の歩交換の権利
向かい飛車側は、2筋から反発して歩を交換する権利がある。飛車交換は陣形に隙が少ない後手に分があるので、先手は☗2五歩と打って拒否するのが部分的には定跡となっている。先手側は条件が揃っていない限り、飛車交換はできないのだ。
【向かい飛車の基本(5)】向かい飛車の理想形
向かい飛車の理想形は☖3四銀〜☖2五銀と歩を取り切ってしまう形。実戦ではここまで成功することはありませんが、居飛車側の駒組みが甘いときは常に狙っていきたい筋ではあります。
向かい飛車の歴史
【向かい飛車の歴史(1)】阪田流向かい飛車(1919年)
図は1919年5月11日に大阪で行われた☗土居市太郎八段ー☖阪田三吉八段の将棋。阪田流向かい飛車誕生の一局として歴史に残る対局である。
【向かい飛車の歴史(2)】升田流向かい飛車(1963年)
1964年の棋聖戦第3局☗升田幸三九段ー☖大山康晴棋聖戦。先手陣は升田幸三九段創案の升田流向かい飛車と呼ばれる作戦。
【向かい飛車の歴史(3)】大山十五世名人の向かい飛車(1967年)
1967年2月の王将戦第3局☗加藤一二三八段(27歳)ー☖大山康晴王将(43歳)の将棋。大山康晴十五世名人は、四間飛車を中心に三間飛車、中飛車、向かい飛車も指しこなす振り飛車党の名人。先手の陣形は現在ではほとんど見かけなくなった舟囲いだが、この時代の対振り飛車戦では急戦が主流。
【向かい飛車の歴史(4)】急戦志向から持久戦志向へ(1994年)
1994年11月の竜王戦第5局☗佐藤康光竜王(25歳)ー☖羽生善治名人(24歳)の将棋。1990年代に入ると、居飛車側の作戦が美濃囲いと穴熊が主流になり持久戦志向の作戦が増え始める。
【向かい飛車の歴史(5)】角交換型向かい飛車(2005年)
2005年8月の王位戦第2局☗羽生善治王位(34歳)ー☖佐藤康光棋聖(35歳)の将棋。後手の佐藤棋聖の作戦は、当時としては珍しいダイレクト向かい飛車。図で☗5三角は☖4二角で無効なので、羽生王位は☗7七角と自陣角を設置。これに対して☖1二飛と寄ったのが佐藤棋聖の研究手だった。
【向かい飛車の歴史(6)】向かい飛車からの桂ポン(2007年)
2007年のNHK杯☗千葉涼子女流三段ー☖佐藤和俊四段戦の将棋。公式戦で初めて☖2五桂とタダで捨てる手筋が出現した将棋で、☗2五同飛には☖2四歩〜☖2五歩と2筋を逆襲する狙いがある。この桂馬のタダ捨ては向かい飛車の戦型では手筋として定着し、居飛車側の陣形によっては成立することがわかった。
【向かい飛車の歴史(7)】向かい飛車の手筋『逆棒銀』登場(2012年)
2012年の王将戦☗阿部健治郎五段ー☖阿部光瑠四段戦。角交換型向かい飛車の新たな手筋として登場した『逆棒銀』の1号局。先手が悠長に駒組みを進めていると、次に☖2五銀〜☖2六銀と2筋を逆襲する狙いがある。
【向かい飛車の歴史(8)】ダイレクト向かい飛車の流行(2013年)
角交換型振り飛車が大流行した影響で、2013年〜2014年にはダイレクト向かい飛車が爆発的な流行を迎える。最初に指し始めたのは佐藤康光九段で、佐藤九段は先後問わずこの作戦を採用している。2013年の王将戦七番勝負☗渡辺明竜王ー☖佐藤康光王将戦では図の局面が二度(第2局と第4局)現れている。
【向かい飛車の歴史(9)】升田流向かい飛車の流行(2013年)
角交換型振り飛車の流行に伴って実戦例が増加したのが升田流向かい飛車です。2013年〜2015年に掛けて振り飛車党のトップ棋士である久保利明九段が多用したことで流行。角が向かい合う状態で駒組みが進むため、居飛車側は穴熊に組みにくい。
【向かい飛車の歴史(10)】西川流角頭歩戦法(2016年)
4手目に☖2四歩と突き出す奇異な作戦。新型ダイレクト向かい飛車として2016年度にプチ流行した『角頭歩戦法』である。流行の発端は西川和宏六段が多用していたことで、角交換から☖2二飛とダイレクトに向かい飛車に振るのが真の狙い。図では☗2五歩が気になるが、☖同歩☗同飛☖8八角成☗同銀☖3三桂で後手も十分に戦えると言う。
【向かい飛車の歴史(11)】阪田流向かい飛車の流行(2018年)
2017年から2018年頃に掛けて、糸谷哲郎八段、菅井竜也八段などが相次いで採用したことで注目された阪田流向かい飛車。後手から☖2四歩☗同歩☖同金と動く『逆棒金』の筋があるので先手は警戒した駒組みが求められる。実戦では穴熊には潜りづらく、☗7八玉型の簡素な囲いで戦いになることが多い。
向かい飛車のおすすめ作戦紹介!【全13テーマ】
【No.01】☗升田流向かい飛車
【1】升田流向かい飛車基本図
まずは升田幸三九段創案の『升田流向かい飛車』です。先手番専用の作戦で、①後手が角道を開けず、②☖5四歩と突いてくる、など、条件が揃えば登板可能。振り飛車党のトップ棋士である久保利明九段と菅井竜也八段なども採用する本格的な作戦です。
【2】升田流でよくある局面
基本図から平凡に駒組みを進めると、だいたいこの局面になる。先手はこの辺りが作戦の岐路で、①☗5七銀〜☗6六銀。②☗6六歩〜☗6七銀。③☗8六歩。④☗7八金などが考えられる。
【3】馬対抗の向かい飛車
基本図で後手が☖3四歩と突くと、☗2二角成☖同銀☗5三角☖5七角と進んで図の局面になる。図からは☗6八銀☖8四角成☗9六歩☖7四馬☗9七角成と進むのが定跡で、お互いに馬を作り合う『馬対抗』と呼ばれる定跡に進む。
【No.02】阪田流向かい飛車
【1】阪田流向かい飛車基本図
阪田三吉名人・王将が戦法の由来となっている阪田流向かい飛車。後手はこのあと☖2四歩☗同歩☖同金と2筋の位に反発して逆襲する狙いがある。シンプルな狙いながら受け方を間違えて、あっという間に潰されてしまった経験は誰でもあるはず。
【2】2筋を逆襲する逆棒金
2018年の王将戦挑戦者決定リーグ戦☗佐藤天彦名人☖糸谷哲郎八段戦の実戦の局面。後手が早速逆棒金の動きを見せたところで、後手が最速で動くと大体似たような局面になる。先手としては早くも緊張感のある局面といった状況で、慎重に対応しなければいけない。
【3】公式戦の実戦例
図は2018年のA級順位戦☗稲葉輝八段☖糸谷哲郎八段戦の実戦の局面。阪田流に対する先手の駒組みとして、図のように金を3八に上がるバランス型の採用率が高い。後手は美濃囲いが薄いので、2筋の押さえ込みが空振りに終わる展開は避けたい。
【No.03】☗大野流向かい飛車
【1】大野流向かい飛車基本図
初手から☗7六歩☖3四歩☗5六歩☖8八角成☗同飛☖5七角☗6八銀☖2四角成☗8六歩と進んで図の局面。明治生まれの棋士で、振り飛車名人の異名を持つ大野源一九段が多用していた作戦である。後手に馬を作らせるが、その馬を目標に駒組みを考える力戦型の振り飛車で、現代では佐藤康光九段が時折採用している。
【2】公式戦の実戦例
図は2018年12月のA級順位戦☗佐藤康光九段☖羽生善治竜王戦の実戦の局面。佐藤九段は図のように中住まいに構える構想も何度か披露している。対する後手の陣形は現代風の穴熊で、馬付きの穴熊ともなればもはや無敵。バランス対堅さの相対する思想はどちらに勝利をもたらすか。
【No.04】☖鬼殺し向かい飛車
後手が☖3三角戦法を採用すると現れる局面で、先手が☗6五角と打ったのがテーマ図。初手からの指し手は☗7六歩☖3四歩☗2六歩☖3三角☗同角成☖同桂☗2五歩☖2二飛☗6五角でテーマ図となる。☖4五桂☗4八銀☖5五角で先手は香取りが受からないが問題ないと見ている。
テーマ図からは☗9八香☖9九角成☗7八銀☖4二飛☗8三角成☖9八馬☗5六馬(図)と進むのが定跡。向かい飛車側のポイントは4三の地点に馬を作らせないこと。居飛車側のポイントは香車は取らせても桂馬は簡単に取らせないこと。4五の桂馬はいずれ先手の駒台に乗るものなので駒の損得はない。
上の図から☖8四香☗4五馬☖8七香成☗同銀☖同馬☗3九銀と進むのが定跡で、2019年の☗横山六段☖窪田七段のカードで2度同一局面が現れている。結果はどちらも横山六段の勝ち。図で☖8二飛には☗8八香と打つことができる。☖8八同馬は☗同飛☖同飛成に☗3三角の王手飛車で竜を抜くことができる。
【No.05】メリケン向かい飛車
【1】メリケン向かい飛車基本図
メリケン向かい飛車は、元奨励会員でアマチュア竜王2回などの実績がある強豪、横山公望さんが考案した攻撃的な向かい飛車です。普通の向かい飛車との違いは、7筋の位を取っているところ。島朗九段の著書『島ノート』でも紹介されているので、知っている人もいるのではないだろうか。
【No.06】筋違い角向かい飛車
【No.07】ダイレクト向かい飛車
【1】ダイレクト向かい飛車の基本図
佐藤康光九段創案のダイレクト向かい飛車。図では☗6五角と打たれる手があるので、従来は一度☖4二飛と途中下車してから後で☖2二飛と振り直すのが一般的だった。いきなり☖2二飛と回れるのなら明らかに一手得できる。
【2】ダイレクト向かい飛車の☗6五角問題
ダイレクト向かい飛車の『☗6五角問題』の局面である。☗8三角成と☗4三角成の両狙いで技ありに見えるが、図では☖7四角と打つ手があって一応受かっている。
テーマ図からは☖7四角☗4三角成☖5二金右☗同馬☖同金☗7五金と進むのが定跡。先手は先に駒損するが、この金打ちで角を取り返すことができる。一見するとバラバラの後手陣が薄く、まとめづらいように見える局面。ここから後手は☖6二玉〜☖7二玉と右玉の要領で指すことになる。
【No.08】☖9五歩型ダイレクト向かい飛車
後手が9筋の位を取る形のダイレクト向かい飛車。普通に駒組みを進めると後手の9筋の位が大きいので、先手はどこかで工夫する必要がある。☗8七銀型から☗9六歩☖同歩☗同香(☗同銀)と反発するのがひとつ。☗7七銀〜☗8六銀〜☗9五銀と仕掛ける手も実戦例がある。
【2】☖9筋の位取り
初手からの指し手は☗7六歩☖3四歩☗2六歩☖9四歩☗2五歩☖9五歩で始まる。後手の作戦は『☖9五歩戦法』とも呼ばれる、居飛車か振り飛車か態度を明らかにしないオープニングの作戦。一昔前に少し流行した作戦で、後手はこの後角交換型振り飛車にするのが基本的な思想である。
【No.09】レグスペ(角交換振り飛車穴熊)
東京大学将棋部が発案した角交換型振り飛車穴熊の戦法がある。その名も通称「レグスペ」。正式名称は「白色レグホーンスペシャル」と言う。2008年には毎日コミュニケーションズ(現マイナビ)から書籍も出版されている。
【No.10】福間流向かい飛車
福間香奈女流五冠が後手番で採用している向かい飛車の仕掛けがある。美濃囲いを完成させたら左辺は☖3二金の一手で済ませ、いきなり☖2四歩と動く。☗同歩☖同角(☖同飛)に☗2五歩と打って飛車交換を避ける。後手は一歩を手に入れたあと再び駒組みに戻り、力戦型向かい飛車の戦いとなる。
【No.11】☖菜々河流向かい飛車
【1】菜々河流の基本図
将棋系Vチューバーの菜々河れいさんの名を冠する『菜々河流向かい飛車』と呼ばれるオリジナル戦法。図の局面が基本図で、ここまでの手順で先手に変化される可能性もある。
【2】☗2六歩〜☗2五歩のオープニング限定
初手から☗2六歩☖3四歩☗2五歩☖4四角と進むと、菜々河流になる。先手が飛車先の歩を詰めずに角道を開けると菜々河流にはならない。図で☗2四歩☖同歩☗同飛には☖3三桂が準備の順。次に☖2二飛とぶつける手が向かい飛車ではよくある手筋。
【No.12】☖モノレール向かい飛車
2005年の王座戦第2局☗佐藤康光棋聖ー☖羽生善治王座戦で現れた局面。一段目を移動する地下鉄飛車に対して、三段目を移動するこちらはモノレール飛車と言う呼び名がある。