今回取り上げるテーマは、横歩取り☖2三歩戦法と呼ばれる作戦です。先手が飛車先の歩を交換したタイミングで☖2三歩と打つ。プロの公式戦では見られない指し方ですが、アマチュアの将棋では今なお見かけるので正しい攻略法を知って爆殺できるように準備万全にしておきましょう!
☖2三歩戦法の基本定跡
まず初めに、☖2三歩戦法の基本定跡を簡単に解説したいと思います。☖2三歩戦法の歴史は古く、起源は江戸時代まで遡る。プロの公式戦において現在は☖3三角戦法が主流ですが、昭和初期の頃はこれが主流の指し方でした。
「横歩三年の患い」の格言の通り、図で☗3四飛と横歩を取るのは先手不利と考えられていた時代もある。そんな中、堂々と横歩を取って高い勝率を上げていたのが木村義雄十四世名人である。
☖2三歩に対して☗3四飛と横歩を取ると、後手は☖8八角成☗同銀☖2五角(図)と動いてきます。この局面が定跡のスタート地点で、図で先手は①☗3二飛成と②☗3六飛の二択で分岐する。
☗3六飛の定跡
まずは☖2五角に対して☗3六飛と引く手を解説する。☗3六飛には☖同角と取る一手で、ここで飛車を取らないと☗4六飛と逃げられて打った角が空振る。そこで、☖2七飛(図)と打つのが実戦例の多い手です。
☖2七飛以下、☗3八銀☖2五飛成☗7七銀☖6二銀☗2七角と進んだ局面を結果図とします。先手は歩を得していることが主張。後手も竜が作れた主張があるので不満はない。ここから先はお互いに駒組みに戻り一局の将棋。
☖2三歩戦法のテーマ図
☖2五角以下、☗3二飛成☖同銀☗3八銀☖3三銀と進んだ図の局面をメインテーマ図として解説していく。図で先手の有力手は次の4つあり①☗4五角、②☗7七銀、③☗6八玉、④☗1六歩。
テーマ図で☗4五角
まずはテーマ図で☗4五角(図)と打つ手を解説する。☗4五角は馬を作るのが狙いで、これで先手良しならわかりやすい。この手は昭和中頃までは公式戦でよく指されていて、名人戦や王将戦のタイトル戦でも指されている。☗4五角に対する後手の候補手は①☖4四歩、②☖6二玉、③☖5四歩の3つ。順番に解説していく。
☗4五角に☖4四歩の変化
☖4四歩は角の引き場所を作った意味。先手は左右どちらかに馬を作れるが、☗2三角成は☖3四角で先手不満となる。☗6三角成と左側に成るのが正解で先手成功に見えるが...。
1950年の名人戦第1局☗木村義雄名人ー☖大山康晴八段戦は☗6三角成以下、☖5二金☗6四馬☖4三角☗7七銀☖6二銀☗3六歩☖6三銀☗3七馬☖4二玉(図)と進んだ。先手は狙い通り馬を作ったが、後手も自玉周りを安定させることができた。こう進めば後手は飛車を持っている主張があるのでまずまずと思える。
☗4五角に☖6二玉の変化
次は☗4五角に☖6二玉(図)と上がる手を解説する。ひと目不思議な手だが、この手は☗2三角成を誘っている意味がある。図で☗2三角成なら☖8六歩☗同歩☖同飛と歩を手に入れて、次に☖2八歩を狙いにして後手が指せる。実戦では☖6二玉には☗7七銀と上がる手が多い。
1961年の王将戦第4局☗大山康晴王将ー☖二上達也八段戦は☖6二玉以下、☗7七銀☖8四飛☗6八玉☖5二金☗7九玉☖1四角(図)と進んだ。こうなると先手は打った角の働きがイマイチ。図で☗1五金と打っても、☖3五飛で失敗する。
☗4五角に☖5四歩の変化
もうひとつ、☗4五角に対しては☖5四歩(図)と突く手もある。先手はここで☗2三角成と馬を作れないようでは☖4五角と打った意味がない。が、☗2三角成には☖3四角とぶつけられて馬を消される。結論としては、この手(☖5四歩)の発見によって☗4五角と打つ手は消えることになる。
☖3四角に☗同馬☖同銀☗5三角と、再度馬を作りに行くのは☖2二飛☗2七歩☖3二飛でどうか。馬は作れそうですが、働きの悪かった盤上の角を駒台に乗せたのはマイナスではある。結果的に☗4五角と打っても思いのほか成果が上がらないことがわかり、次第にこの手は指されなくなる。
テーマ図で☗7七銀
☗4五角と打って良くできないのなら、☗7七銀(図)は一番自然な手に見える。これに後手は☖3四角と引く手が実戦例の多い手。☗4五角を防ぎつつ、☗3五金には☖6七角成☗同金☖7九飛の強襲を見せる。
2016年の☗菅井竜也七段ー☖中川大輔八段戦は☗7七銀に☖3四角と引き、☗6八玉☖2四歩☗3六歩☖2五歩☗3七桂☖2四歩☗2二歩☖4四銀☗4六歩(図)と進んでいる。こうなれば一局の将棋。
次は先手側の有力な手を紹介しよう。公式戦での実戦例はない手ですが、☖3四角に対しては☗7五歩(図)と突く手がある。意味としては、飛車のコビンを空けて角のラインで攻めようと言うこと。見た目以上に受けにくいこの手は好手だと思う。
テーマ図で☗6八玉
☗6八玉(図)は居玉を避けて自然な一手。次に紹介する森新手☗1六歩が発見される以前は、これが最善だと思われていた手だ。図で後手は☖4四銀と☖4二玉が有力。それぞれ順番に解説する。
☗6八玉に☖4四銀の変化
まずは☗6八玉に☖4四銀(図)と上がる手から見ていく。☖4四銀の意味は、先手からの☗4五角と☗3五金を消して次に☖3三桂の活用を図った意味。対して先手は①☗1八角、②☗5六角、③☗7七銀が定跡。
☗1八角は昔指されていた定跡の一手。☖6二銀など平凡な受け方だと☗2二歩がある。図の☗1八角に対しては☖5四歩と突くのがうまい手で、☗同角と取らせて☖5二金と受けるのが定跡。これで局面のバランスは取れている。
☗1八角に☖5四歩☗同角☖5二金☗2二歩☖5三金(図)と進むのがよく指されていた定跡の手順。1984年に谷川浩司名人が後手を持って最初に指した順で、図で角を逃げるのは☖2二飛で先手が失敗する。図の☖5三金以下、☗2一歩成☖5四金☗1一とと駒の取り合いになるが後手が有望。
次は☖4四銀に対して☗5六角(図)を調べてみる。☖3四角と引く手を防ぐことで、次に☗1五金と打って角を捕獲する狙いがる。図で☖5五銀には☗4五角とかわすのが好手で、☖5二金に☗2二歩で先手良し。途中☖5五銀のときに☗2三角成は☖4七角成の強手があり、☗同銀は☖2八飛の王手馬取りがある。
1988年の☗丸田祐三九段ー☖谷川浩司王位戦は☗5六角に☖3三桂と跳ね、☗1五金(図)と打った。実戦で谷川王位は☖1四角と引き、☗同金☖同歩☗2三角成と進んで先手が良くなった。図では☖1四角ではなく☖4五銀と立ち、☖同角☗4七角成☖同銀☗4五桂と進める方が良かった。
☖4四銀に①☗1八角と②☗5六角を調べたが、先手がはっきり良くすることができなかった。次は無難な手に見える☗7七銀(図)と上がる手を調べてみる。
☗7七銀と上がったあと、先手は☗7九玉〜☗8八玉と入城する狙いがある。対する後手は☖4四銀の後続手として☖3三桂〜☖3四角と攻撃形を整える。
☗6八玉に☖4二玉の変化
☖4二玉は自玉を囲いにいく手。次に☖4四歩と突いて角の引き場所を作り、角を安定させることができれば後手が十分になる。図で先手が動くなら☗4五角が見えるが、これはうまくいかない。
☖4二玉に☗4五角と打つ手は、☖5二玉(図)と寄る手が好手でうまくいかない。図で☗2三角成といけないと角を打った意味がないのだが、☗2三角成には☖4七角成☗同銀☖2八飛の王手馬取りがあり後手が優勢になる。
1968年の☗中原誠六段ー☖米長邦雄六段戦を紹介する。この将棋は☗6八玉に☖4二玉以下、☗7七銀☖5二金☗7九玉☖4四歩☗9六歩☖6四歩☗8八玉(図)と進んだ。先手玉は安定しているが、後手も一安心できた。こういう持久戦模様になると、駒損をしている先手は苦しくなるのでこの展開では不満が残る。
テーマ図で☗1六歩
図の☗1六歩は、1987年に森雞二九段が指した新手。羽生善治九段の著書「羽生の頭脳」では、この手を「おそらくこれが最善手」と述べている。この手の直接的な狙いは、☗3五金と打って角を捕獲する意味。☗1六歩の効果により、☖1四角と逃げたときに☗1五歩と突く手がある。
図の☗1六歩に対する後手の応手は次の4つ。①☖2四歩、②☖4四歩、③☖1四歩、④☖2二飛。順番に解説する。
☗1六歩に☖2四歩の変化
森雞二新手☗1六歩が指された1号局の将棋で、後手を持っていた谷川浩司九段は☖2四歩(図)と指した。☗3五金のときに角の退路を確保した意味だろう。図で☗6八玉は☖3四角で先手が面白くないし、☗4五角も☖5四歩☗2三角成☖3四角で先手不満。
☖2四歩に対して☗3一金と打つのが驚愕の一手。こんな狭いところに金を手放して大丈夫かと思われるかもしれないが、☖2二飛には☗2三歩☖同飛☗3二角で先手の攻めがつながる。この変化は後手が☖2四歩と突いたことで生じたもの。2三の地点にスペースがなければこの手は成立しなかった。
☗3一金の狙いは桂香の補充にある。これを上回る攻めがない後手は、一旦は守りに徹するよりなさそうだ。☗3一金に☖3四角、☗2一金には☖1二香と丁寧に受ける。図で☖4四銀なら☗3六桂が厳しい。☖4二玉と受けるしかないが、先手の攻め駒に近づくという意味では危険。先手は攻め駒が重たいので、切れ筋に陥らないようにしたい。
☖3四角のところで先手は☗3二角(図)と打つ手もある。AIの評価値でも☗2一金と同じくらい先手に形勢の針が振れる。☖1二香には☗2一角成として、角で桂馬を取りにいく構想である。先程の定跡では角が動けなかったのに対して、こちらは馬なので安心感がある。
☗1六歩に☖4四歩の変化
次は☗1六歩に☖4四歩の変化を調べてみる。☖4四歩は次に☖4三角と引く場所を作った意味。☗4五角と☗3五金の攻めを同時に受けているので、先手は手段が限られている。とは言え、このまま角を安定させてしまうと駒損の先手は段々と苦しくなってくる。
☖4四歩には☗6五角と打つのが好手で、後手は角のラインが受けにくい。次に☗2一角成とされて、ただで桂馬を取られてしまうのは厳しい。桂馬を受けるには飛車を使うほかに手段がないが、攻めに使いたい飛車をここに手放すようでは悔しい。
☗6五角に☖2二飛は☗3二金、☖2二飛打には☗3一金で先手が良い。図の☖3一飛なら金を打たれる筋は防いでいるが、いかにも狭い。この☖3一飛までがこの変化の定跡で、ここで先手の指し手が分岐する。図では☗7七銀、☗7七桂、☗3六歩、☗5六角などが指されている。
図の☗5六角に代えて☗7七銀も普通の手。他に☗7七桂と☗3六歩は、桂馬の活用を図る攻めの手。2006年の☗渡辺明竜王ー☖中川大輔七段戦はこの形になり、☗5六角以下☖2二銀☗7七銀☖5四歩☗4六歩☖5五歩☗4七角と進んだ。後手はどうにかして二枚の飛車をうまく活用できれば良くできるのだが、実際はなかなか難しいようだ。
☗1六歩に☖1四歩の変化
☗1六歩に対して後手も☖1四歩と突いたらどうか。間合いを図る意味もあり、今度は☗3一金には☖1三桂と跳ねることができる。図で先手は☗3五金と打てば角を捕獲できるが、これには☖1六角と捨てる強手があって意外と難しい。この局面での最善手は難しいが、☗6八玉と☗7七銀が有力とされている。
☖1六角以下の手順を研究してみる。☖1六角には先手も☗同香と取るしかなく、後手は当然☖1五歩と香車を取りにくる。☖1五歩以下、☗同香☖同香☗1六歩☖同香☗1七歩と丁寧に対処しても、☖1八歩(図)と、歩の裏側に歩を垂らされて完全に受け切るのは不可能になる。
図から☗1六歩☖1九歩成☗1七桂☖1八と☗2五桂と進めば手順に桂馬は逃げることができるが、☖4二銀と引かれた後の☖2八とが厳しい。この変化は居玉のマイナスが大きすぎて先手が勝てない。丁寧に対応してダメなら、先手はどこかで☗2五角や☗4五角、☗6五角の筋で反撃に打って出るよりなさそうだがタイミングが難しい。
角を捕獲しようとしても難しい将棋になる。あえて先手が踏み込む変化でもないし、前例でも☗3五金と打った将棋はない。代えて前例の多くは居玉を解消する☗6八玉(図)が指されている。図で☖4二玉には今度こそ☗3五金がある。
1筋の端歩の交換を入れてから☖2四歩には、これでも先手は☗3一金(図)と打つ。今度は☖1三桂と逃げられる手が見え見えなのでダメそうに見えるが...。
☖1三桂には☗2三角(図)と打つのが好手で先手が指せる。3一に打った金が重く見えるが、先手はのちに☗3二金や☗1五歩の攻めが残っており手に困ることはなさそう。
☗1六歩に☖2二飛の変化
☗1六歩には☖2二飛(図)という手も公式戦で指されている。飛車が8筋から動いたことで先手から☗8三角が生じるが構わないと見ている。
先手はやはり☗8三角(図)と打ち、馬を作る指し方が有力。図から☖6二玉☗6八玉☖2四歩☗9六歩☖7二銀☗5六角成☖3四角☗同馬☖同銀☗8二角と進んだ将棋が、2022年の☗小山礼央アマー☖中川大輔八段戦の実戦の進行。この将棋は先手の小山アマが71手で圧勝している。
☖2三歩戦法まとめ
☖2三歩戦法の定跡では、図の☗1六歩の局面が重要な分岐点になる。ここで後手の有力手は4つで①☖2四歩、②☖4四歩、③☖1四歩、④☖2二飛がある。
①☖2四歩には☗3一金と打って先手有利。②☖4四歩には☗6五角で先手有利。③☖1四歩には一度☗6八玉と上がる。そこで☖2四歩は☗3一金、☖4四歩は☗6五角、☖4四銀には☗5六角と打っていずれも先手が良くなる。④☖2二飛には☗8三角で先手有利。
この定跡は☖4五角戦法や相横歩取りの戦型と比べて、後手から攻撃的な手があまりないので先手が受け方を間違えて悪くなる心配もあまりないのは安心できる。