世界中の将棋ファンのみなさんこんにちは!編集部のさめはだです。
今回は相居飛車の主要戦法のひとつである『一手損角換わり』について基本定跡をまとめました!しっかりと定跡を覚えていくのである!
一手損角換わりの基本
一手損角換わりは、後手が敢えて一手損をして角交換を行い、飛車先の歩が伸びていない得を主張する作戦。
一手損角換わりの歴史
【一手損角換わりの歴史(1)】一手損角換わりの起源(2003年)
一手損角換わり戦法の起源は、今からおよそ20年ほど遡る2003年のとある日の将棋。後手番の淡路仁茂九段が☖8八角成(図)と指したことが事の発端でした。通常の角換わりでさえ後手が少し厳しい状況なのに、さらに手損をするなんて...。最初はみんな否定的であったことは言うまでもありません。
【一手損角換わりの歴史(2)】流行の先駆けとなった一局(2003年)
淡路九段の将棋から二週間後の2003年6月25日のA級順位戦で、今度は青野照市九段が一手損角換わりを採用しました。作戦自体の優秀性は未だ謎に満ちた状態ではありますが、A級で指されたことで多くの棋士から注目を浴びました。以降は興味を持った棋士が少しずつ増え始め、一手損角換わりの世界は広がりを見せ始める。
【一手損角換わりの歴史(3)】一手損の世界の同型定跡(2004年)
この図は一手損の世界の同型定跡で、2004年から2005年頃までよく指されていました。後手がわざわざ一手損までする理由はこの局面に期待している意味があります。通常の同型腰掛け銀と違って後手は8筋の歩が伸びていないので、桂頭を攻められても☖8五桂と跳ねる余地があるのが大きい。
【一手損角換わりの歴史(4)】相腰掛け銀の新しい基本図(2005年)
一手損角換わりに対しては、同型から仕掛けても☖8五桂の反撃があるので後手もまずまずでした。ならば先手は、もう少し工夫をして仕掛ける必要があると考え次に編み出したのが右四間飛車の形でした。同型に代わる新しい基本図として、2005年頃から実戦例が増加して2006年頃までよく指されました。
【一手損角換わりの歴史(5)】一手の差を生かす単純棒銀(2005年)
通常の角換わりと比べて一手得をしている先手は、一手の得を最大限に生かす発想として棒銀が有力と考えました。通常の角換わりでは仕掛けが単調になりがちで下火になった棒銀ですが、攻めの速度が一手違えばどうか。棒銀は腰掛け銀に次ぐ二番人気の作戦として、2005年度には名人戦、棋聖戦、王座戦とタイトル戦の舞台でも多く指されました。
【一手損角換わりの歴史(6)】☗先手1筋位取り右玉(2006年)
2006年から2007年頃に掛けては、先手が1筋の位を取る右玉(図)が流行しました。先手の駒組みの軸は早い段階で☗1六歩と打診する点で、対して後手が☖1四歩と受けてこれば先手は居玉のまま早繰り銀にします。端を受けなければ先手は1筋を突き越して右玉にします。先手で右玉は少し消極的で打開が難しいのですが、終盤戦で1筋が広いことを主張にするのです。
【一手損角換わりの歴史(7)】一手損の世界で復活した早繰り銀(2007年)
一手損対策は2007年頃から早繰り銀が主流になります。これまではあまり注目されていなかった早繰り銀でしたが、腰掛け銀が苦戦していることもあり実戦例が徐々に増加。ゼロ手損の早繰り銀は、腰掛け銀に相性が悪く昭和50年代に廃れていますが、それが一手損の世界では先手が一手早く仕掛けることができるため有力だと判明したのです。
【一手損角換わりの歴史(8)】早繰り銀対策の四間飛車(2008年)
2008年の王位戦第4局☗深浦康市王位ー☖羽生善治名人戦。早繰り銀を四間飛車で受ける形は部分的な定跡で、以前から時折指されている作戦です。後手はこの後☖6二玉〜☖7二玉と右玉で戦いますが、自陣をまとめるのが大変で実戦例は多くない。
【一手損角換わりの歴史(8)】佐藤康光新手☖4五銀(2010年)
一手損角換わり対策の変遷を辿ると、流行当初の2004年〜2005年頃は腰掛け銀が主流で、その後早繰り銀に流行が移行した。2010年頃は図の局面が課題局面のひとつで、☖4五銀は佐藤康光九段の指した新手である(従来の定跡は☖3六歩)。この手は次に☖3三桂、☖5五角と先手の飛車を徹底的にいじめる意味。佐藤新手は優秀で、登場から後手が1勝6敗と結果を出した。
【一手損角換わりの歴史(8)】銀の足場を作る渡辺流☗3六歩(2011年)
一手損角換わり対早繰り銀の戦型ではよく見かける足場を作る歩の手筋で、この☗3六歩は持ち駒の歩を盤上に打ったものだ。公式戦では2011年の竜王戦七番勝負第3局で渡辺明竜王が初めて指した手筋で、この戦型では頻出する重要な手筋として今でも指され続けている。
【一手損角換わりの歴史(9)】☖4手目角交換が主流に(2012年)
丸山忠久九段が得意としている後手が4手目に角交換をする形。従来の定跡との違いは、後手が☖8四歩と☖3二金を後回しにして駒組みできると言う点。要するに、先手の早繰り銀の速攻に対して、後手は最速で受けの形を作れると言うわけだ。
【一手損角換わりの歴史(10)】竜王戦で2度出現した局面(2012年)
2012年の竜王戦七番勝負は、渡辺明竜王に丸山忠久九段が挑戦したシリーズ。そして後手の丸山九段が用意した作戦が☗3五歩に☖4三銀と固める作戦でした。☗3四歩の取り込みには☖同銀右と取る形が好形で、銀交換になってもまだ金銀三枚の堅陣を維持できるのが心強い。
【一手損角換わりの歴史(11)】丸山流には棒銀が優秀(2013年)
丸山流の銀矢倉は☗3五歩に☖4三銀と引く手が骨子。対する先手が編み出した対策が、☗4六銀ではなく☗2六銀と棒銀に出る作戦だった。同じように☖4四歩と突くのは☗1五銀の棒銀が厳しい。☖3二金と上がっていない形を咎められてしまう格好となるからだ。
【一手損角換わりの歴史(12)】一手損角換わり☖7三銀型(2015年)
一手損角換わりの歴史は丸山忠久九段が創ってきたと言っても過言ではない。一時期は大流行した一手損角換わりも、この頃からは丸山忠久九段や糸谷哲郎など一部のスペシャリストしか指さない戦法へとなっていた。丸山九段が次に連投したのが早繰り銀で対抗する☖7三銀型。先手の☗7九玉型に対して後手は居玉ですが、先手玉だけ戦場に近いというマイナス面があるので一概に得とは言えない。
【一手損角換わりの歴史(13)】羽生流☖7二金型右玉(2019年)
2019年に5局程指された☖7二金型右玉。最初に指し始めたのが羽生善治九段なので、羽生流右玉と呼ばれる。通常の右玉と比べると、玉と金の配置が逆形なのが違和感がある形ですが、桂馬が跳ねた後に☖7三玉と上がるルートがあるので耐久力がある。
【一手損角換わりの歴史(14)】6年ぶりのタイトル戦登場(2023年)
2023年1月の☗藤井聡太王将ー☖羽生善治九段戦。タイトル戦で一手損角換わりの戦型になるのは2016年12月の竜王戦第7局☗渡辺明竜王ー☖丸山忠久九段戦以来6年ぶりとなる。一手損角換わりの戦型は、数年に一度流行に変化はあるが目新しい作戦の出現はなし。戦型の特性上この先10年後、20年後も変化はないと考えられる。
【一手損角換わりの歴史(15)】現在注目の最新型(2024年)
現在注目の最新型を紹介する。先手の一番人気はやはり早繰り銀の速攻である。後手が8手目に角交換をする指し方が多いので、先手は☗7八金型に限定される。後手は早繰り銀の3筋からの仕掛けに対して、☖4三銀と引いて受ける形が主流。図では☖5二金☗6四銀☖4二玉と、6筋の歩を取らせるのが最新の指し方です。
後手一手損角換わり対先手腰掛け銀
【腰掛け銀(1)】同型定跡
一手損の世界の同型定跡。
【腰掛け銀(2)】相腰掛け銀
一手損角換わりの戦型では、同型からの仕掛けはあまりうまくいかない。先手の工夫が☗8八玉と☗4八飛の二手を指してから☗4五歩と仕掛ける。
【腰掛け銀(3)】一段飛車+腰掛け銀
一手損角換わりに対して先手は早繰り銀が主流ですが、腰掛け銀も有力な作戦です。先手の仕掛けのバリエーションが増えたことで以前に比べると後手の☖8四歩型の効果が薄く、後手はこの後☖8五歩と突くケースも少なくない。最終的にはゼロ手損の角換わり腰掛け銀でよく見る定跡に合流することが多い。
後手一手損角換わり対先手早繰り銀
【早繰り銀(1)】2筋で銀交換する定跡
2008年頃によく指されていた定跡で、☖2四同歩☗同銀と先手の銀を呼び込んで銀交換になる。初期の頃は☖2四同歩☗同銀に☖5五角と打つのが定跡で、☗3七歩☖2四銀☗同飛☖2三歩☗2八飛☖3三桂と進んでいた。
【早繰り銀(2)】☗7九玉型
☗2四歩と銀交換に進む定跡が難しいと見た先手は、一度☗7九玉と引く手を編み出した。☖8六歩☗同歩☖同飛☗2四歩☖同歩☗7七角と進むのが定跡で、2009年頃によく指されていました。
【早繰り銀(3)】四間飛車対抗形
早繰り銀を四間飛車で受ける定跡は昔からある定跡。金銀がバラバラになるので指しこなすのが難しい。現在でもしばしば指されている定跡形で、力戦調の将棋になりやすい。
【早繰り銀(4)】佐藤新手☖4五銀
2010年に佐藤康光九段が指した新手。従来の定跡は☖3六歩であった。後手は次に☖3六歩〜☖3三桂〜☖5五角と、先手の飛車を徹底的にいじめる狙い。先手は飛車のコビンが開いているのが欠陥で、飛車の安定度にかける。
【腰掛け銀(7)】☗7八玉型
後手が四手目に角交換する形だと、先手は☗7八玉に組むことが多い。『角交換に5筋は突くな』の格言に逆らった陣形。
【早繰り銀(8)】☗7八金型
一手損対早繰り銀の最新型。後手は6四の歩を取らせる方針で、玉形の整備を急ぐ。☖5二金☗6四銀☖4二玉☗5五銀と進むのが一例でいい勝負。
後手一手損角換わり対先手棒銀
【棒銀(1)】1筋突破型の棒銀
1筋を突破する狙いのシンプルな棒銀。通常の角換わり対棒銀の戦型に比べると、後手が一手損をしているため先手の仕掛けが一手早い。とはいえ、仕掛け自体が単純明快で狙いが単調なため、うまくいくとは限らない。
【棒銀(2)】3筋から仕掛ける棒銀
一手損角換わり対棒銀の戦型では、先手は3筋から仕掛ける実戦例が多い。1筋から突破する指し方は単調になりやすく、工夫のしようがないのが人気がない理由。先手はこの後☗3七銀と引いて銀を使うことになる。
【棒銀(3)】棒銀対四間飛車
棒銀に対しては☖4二飛と四間飛車で対抗する作戦も有力です。金銀がバラバラでまとめるのが難しく、玉も硬くならないので採用率は低め。
一手損角換わりその他
【右玉(2)】羽生流☖7二金型右玉
2019年5月の王座戦で羽生善治九段が指した☖7二金型の右玉。通常の右玉と比べて、玉と金が逆形で玉の腹がスカスカに見えますが、桂馬が跳ねた時に通常の右玉よりも玉頭が厚い意味合いがある。
【その他】丸山流☖5一銀
飛車先の歩も突かず、腰掛け銀でも早繰り銀でもない不思議な作戦。丸山忠久九段が2022年に連投していた作戦で、ここから☖4二銀上☖4三銀☖5四銀とひたすら銀を動かします。元々は2017年の電王戦☗佐藤天彦名人ー☖PONANZA戦で、将棋ソフトのポナンザが指した作戦です。