【将棋戦法ミニ事典】

【将棋戦法ミニ事典ー矢倉・雁木編】後手居玉棒銀(原始棒銀)

【将棋戦法ミニ事典】では、昭和の古い定跡から令和の最新戦法までさまざまな基本戦法を解説しています。詳細は下の「テーマ図の解説」をご覧ください。

テーマ図の解説

テーマ図の後手の作戦は、居玉のまま一直線に棒銀を繰り出していく「原始棒銀」と呼ばれる作戦です。狙いは単純で、8四の銀と7七の銀を交換することにある。まったく素人の戦法にも見えますが実は至って本格的な作戦で、1997年の羽生ー谷川戦の名人戦七番勝負でも指されている。公式戦では1990年代後半から2000年代始め頃に実戦例が集まっている。

【第1図】原始棒銀の成功例

テーマ図以下の指し手①
☗5八金 ☖9五銀
☗6七金右 ☖8六歩(第1図)

まず初めに原始棒銀の成功例を見ていこう。テーマ図で先手が☗5八金〜☗6七金右と矢倉囲いを目指すと、後手はその隙に☖9五銀〜☖8六歩(第1図)と早速仕掛けてくる。

第1図からは☗同歩☖同銀☗同銀☖同飛☗8七歩☖8二飛と進んで後手十分の形勢になる。これで先手が全くダメと言うわけでもないのですが、後手の主張を通すので先手に不満が残ります。テーマ図まで戻って、先手は少し工夫をする必要がありそうだ。

【第2図】棒銀をさばく強硬手段

テーマ図以下の指し手②
☗7九角 ☖6四歩(第2図)

テーマ図で☗5八金は、第1図の進行で先手が面白くありませんでした。そこでテーマ図では☗7九角と引く手が定跡化された棒銀対策になります。

☗7九角に対して同様に☖9五銀と出るのは、☗6八角と上がられ8筋を受けられて後手失敗。そこで後手は☖6四歩(第2図)と6筋の歩を突くのが攻めを繋げる継続手になります。

【第3図】角のラインを通す工夫

第2図以下の指し手
☗6八角 ☖6五歩
☗同 歩 ☖9五銀(第3図)

☗6八角に対して後手は単に☖9五銀と出ても、☗9六歩と銀を追い返されて攻めが続きません。なので後手は☖6五歩☗同歩と6筋の歩を突き捨ててから☖9五銀(第3図)と出るのが定跡化された攻めになります。

第3図で平凡に☗9六歩と突くのは、今度は☖8六歩と突かれて先手がまずい。☖6五歩☗同歩と突き捨てた効果で、☖8六歩☗同歩☖同銀☗同銀の進行は☖9九角成がある。こうなっては銀香交換の駒得でも馬を作った後手が有利となる。

【第4図】定跡化された受け

第3図以下の指し手
☗5五歩 ☖同 角
☗5八飛(第4図)

第3図では☗5五歩と5筋の歩を伸ばすのが手筋で、☖同角とおびき寄せてから☗5八飛(第4図)と飛車を回るのが定跡化された手順。第4図で後手は☖4四角と引くぐらいだが、☗5五歩と蓋をしてしまえば棒銀の威力が半減すると言う仕組みだ。

【第5図】森下卓八段ー谷川浩司竜王戦の将棋

第4図以下の指し手
☖4四角 ☗5五歩
☖5二金 ☗4八玉
☖4二玉 ☗3八玉
☖3二玉(第5図)

第4図の☗5八飛に☖8六歩☗同歩☖同銀と強攻した実戦もあるのですが、これは以下☗5五飛☖7七銀成☗同桂で先手有利になる。よって後手も一旦は☖4四角と逃げるしかない。以下☗5五歩と角を封じて後手の攻めは続かない。

これ以上攻める手がないので後手は陣形整備に手を戻すことになり、自然な進行で第5図まで進む。第5図は1997年の森下卓八段ー谷川浩司竜王戦(全日プロ)の実戦の進行で、こうなれば棒銀の脅威はかなり薄れたと思って良い。

【第6図】後手の持久戦策

テーマ図以下の指し手②
☗7九角 ☖3二金
☗2六歩 ☖4二銀(第6図)

☖6四歩〜☖6五歩と6筋をこじ開ける指し方は破壊力はあるのですが、☗5五歩〜☗5八飛(第4図)の受けの好手があってうまくいかなかった。仕掛けてダメなら別の手段をと言うことで、テーマ図では☖3二金〜☖4二銀(第6図)と、一旦自陣に手を入れて様子を伺う指し方もある。

【第7図】タイミングをずらして☖6四歩

第6図以下の指し手①
☗4八銀 ☖4一玉
☗5八金 ☖6四歩(第7図)

第7図の後手陣をテーマ図と比べると、☖3二金、☖4二銀、☖4一玉の3手が入っている。対する先手陣には☗4八銀、☗5八金、☗2六歩の3手が入った。お互いに自陣の駒が少し動いて☖6四歩と突いたのが第7図。今度は第4図のように☗5八飛と回る手がないので、☖6五歩☗同歩☖9五銀の仕掛けには別の受け方を考える必要がある。

【第8図】羽生善治名人ー谷川浩司竜王戦の将棋

第7図以下の指し手
☗6七金右 ☖9五銀
☗6八角 ☖6五歩
☗5七銀(第8図)

第8図までの手順は1997年の名人戦七番勝負第6局、羽生善治名人と谷川浩司竜王の将棋の実戦の進行。将棋界の頂点を決める名人戦の舞台でも指される程なので、原始棒銀も本格的な作戦として認知されているようだ。

第3図の仕掛けと比べると先手陣の金銀が手厚いので、今度は☖6五歩を取らない選択肢を選べる。第8図以下☖6六歩☗同銀右☖6五歩には、☗7五銀と出る手が8筋の受けにも利いて問題ない。実戦は第8図以下☖8六歩☗同歩☖同銀☗同銀☖8八歩と仕掛けているが、これが無理攻めだったようで先手有利の形勢になっている。

【第9図】5筋の歩を突く指し方

第6図以下の指し手②
☗4八銀 ☖5四歩(第9図)

これまでは後手が☖6四歩と6筋の歩を突く指し方を見てきましたが、次は後手が☖5四歩と5筋の歩を突く指し方を見ていきます。矢倉の将棋ではこちらの方が自然な形で、見慣れた形だ。第9図の☖5四歩の狙いを簡単に言うと、☖3一角と引いて「引き角」にして角を使う狙いだ。

【第10図】島朗八段ー佐藤康光八段戦の将棋

第9図以下の指し手
☗5八金 ☖9五銀
☗6八角 ☖9四歩
☗6七金右 ☖3三銀
☗6九玉 ☖3一角(第10図)

第10図までの手順は、1997年の島朗八段ー佐藤康光八段戦(順位戦A級)の実戦の進行。後手は☖3一角と引いて8六の地点に角の利きを足し、なんとしてでも棒銀をさばく狙いである。先手は8六の地点に「利き」が足りない。第10図からは次に☖8六歩☗同歩☖同銀☗同銀☖同角...と進めば後手十分だが...。

実戦は第10図以下☗8八銀と引いた。棒銀系の攻めに対する部分的な手筋で、☖8六歩☗同歩☖同銀には☗8七歩と追い返せば後手の棒銀は足止めできる。歩の交換は許しても銀交換はしない。ここからはお互いに遊び駒を活用していく駒組みに移行し一局の将棋となる。

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