【将棋戦法ミニ事典】では、昭和の時代に指されていた古い定跡から令和の最新戦法までさまざまな基本戦法を解説しています。詳細は下の「テーマ図解説」をご覧ください。

テーマ図の解説
テーマ図の後手陣は中原誠十六世名人が多用していた作戦で、「中原流急戦矢倉」の呼び名がある。二枚銀を中央に繰り出して、厚みで中央から押しつぶす狙いがある。最近はほとんど見かける機会がない古い定跡で、公式戦の実戦例は1980年代後半から1990年代に集まっている。
【第1図】中原流急戦矢倉を目指すには

中原流急戦矢倉を目指すには、まずは図のような駒組みに組んで5筋の歩を交換するところからスタートします。5四の歩を盤上から消すことで、後に☖5四銀と進める升目を空けている意味があります。第1図からは☗5五同歩☖同角と進み、次に☖2二角と元の位置に角を戻しておきます。
【第2図】中原流急戦矢倉の基本の駒組み(=テーマ図)

第1図からかなりの手数を進めてしまいましたが、これでテーマ図に合流しました。☖4四銀+☖5四銀の二枚銀に加えて☖6三金と上がれば中原流急戦矢倉の基本形が完成です。先手陣の金矢倉に比べると後手玉の薄さは際立つものの、そんなことはお構いなし。金銀の厚みで押し潰す攻撃重視の作戦なので、攻め将棋の人や定跡形を避けたい人は是非。
【第3図】実戦例① 谷川浩司二冠対中原誠名人戦(1988年)

ここからは中原流急戦矢倉の実戦例を4つ見ていきます。第3図は1988年の名人戦七番勝負第2局、谷川浩司二冠(26歳)と中原誠名人(40歳)の将棋です。第3図に至るまでの手順中、先手が一度☗2五飛〜☗2八飛と飛車の動きで手損をしているので、その影響で☖5五歩の一手が入っている。局面は後手の中原名人が☖6五歩と仕掛けたところだ。
【第4図】中央で戦いになる
第3図以下の指し手
☗6五同歩 ☖7五歩
☗6六角 ☖3一角
☗4五桂(第4図)

谷川二冠対中原名人戦の実戦は、第3図(☖6五歩)以下☗同歩☖7五歩と進みやがて第4図の局面を迎えました。中央付近の勢力は二枚銀の厚みがものを言う後手に分がありますが、玉の堅さは先手が圧倒的に上だ。実戦的には玉の薄い後手が勝つのはかなり大変に思える。
第4図の☗4五桂は読みの入った攻めで、☖同銀直☗同銀☖同銀と進むと先手は桂損になります。故にこの☗4五桂は思い切った手で、実戦でも☖同銀直とは取りませんでした。☖同銀直には☗同銀☖同銀と進み、そこで☗6四銀と打つ手が厳しく先手良し(先手+250点)。実戦は第4図で☖3三桂と桂をぶつけ、以下☗同桂成☖同金☗2二歩☖8六歩☗2一歩成☖5三角☗8六歩☖7四桂と進んで戦いになった。
【第5図】実戦例② 森下卓五段対中原誠二冠戦(1989年)

第5図は1989年の竜王戦本戦トーナメント、森下卓五段(23歳)と中原誠二冠(41歳)の将棋。☖5五歩の一手が入ったテーマ図以下、先手が☗1五歩☖同歩☗1四歩と仕掛けた局面です。第5図で☖同香は☗2四歩☖同歩☗同飛の十字飛車が厳しい。なので後手はこの歩を取ることはできません。
実戦は第5図以下、☖6五歩☗同歩☖7五歩☗2四歩☖同歩☗1三歩成(第6図)と進んで戦いになった。
【第6図】先手ペースに見えるが...
第5図以下の指し手
☖6五歩 ☗同 歩
☖7五歩 ☗2四歩
☖同 歩 ☗1三歩成(第6図)

森下卓五段ー中原誠二冠戦は第6図の局面に進みました。第6図で☖同角は☗1五香の田楽刺しが厳しく、☖同香は☗1四歩〜☗2四飛の十字飛車がある。☖同桂には☗2四飛と歩を取った後に☗1四歩が生じるので、先手ペースに思えます。実戦は☖同桂☗2四飛☖3三金☗2八飛☖2四歩と進み、桂馬の足場を作って一局の将棋。
第6図では☖同桂☗2四飛に☖2三歩と普通に受けて後手有利の形勢でした。☗1四歩の叩きが厳しく見えますが、☖7六歩の取り込みがそれ以上に厳しいようで、①☗同金には☖6五桂☗6六角☖5六歩、②☗6六角には☖6五銀、③☗8八角には☖8六歩☗同歩☖8七歩☗同金☖3一角でいずれも後手有利。
【第7図】実戦例② 佐藤康光五段対谷川浩司王位戦(1990年)

第7図は1990年の王位戦七番勝負、佐藤康光五段(20歳)対谷川浩司王位(28歳)の将棋。後手の谷川王位が持ち駒の歩を☖5五歩と打って動いたところだ。実戦は第7図以下、☗5五同歩☖同銀左☗5六歩☖4六銀☗同歩☖8六歩☗同歩☖8五歩(第8図)と進んだ。
【第8図】8筋も絡めて戦線拡大
第7図以下の指し手
☗5五同歩 ☖同銀左
☗5六歩 ☖4六銀
☗同 歩 ☖8六歩
☗同 歩 ☖8五歩(第8図)

第8図直前の☖8六歩には☗同角と取る手も考えられるところであるが、それには☖8五銀と打たれる手が厳しい。と言うことで☗8五同歩と取ったが、今度は☖8五歩(第8図)の継ぎ歩が手筋となる。☖8六歩の突き捨ては常にどちらで取るか悩ましい。実戦は第8図以下、☗8五同歩☖同桂☗8六角☖6五歩と進んで後手ペースになっている。
【第9図】実戦例③ 永瀬拓矢六段ー羽生善治棋聖戦(2016年)

第9図は2016年の棋聖戦五番勝負第4局、永瀬拓矢六段(24歳)対羽生善治棋聖(45歳)の将棋です。この将棋は阿久津流急戦矢倉の定跡形から始まって、中原流急戦矢倉の定跡形に合流した将棋でした。佐藤康光五段ー谷川浩司王位戦は☖5五歩(第7図)と動きましたが、この将棋は☖6五歩(第9図)と6筋から動いている。
実戦は第9図以下☗5七銀上☖5五歩☗3七桂☖3五歩(第10図)と進んで戦いが起こった。
【第10図】難解な中盤戦へ
第9図以下の指し手
☗5七銀上 ☖5五歩
☗3七桂 ☖3五歩(第10図)

羽生棋聖の仕掛けで、盤上では三歩がぶつかった状態になっている。先手側からすると後手の二枚銀の攻めの厚みは脅威を感じるところだ。第10図以下実戦は☗5五歩☖同銀直☗同銀☖同銀☗4五桂と進んだ。第10図は54手目の局面ですが、ここから羽生棋聖の猛攻が炸裂してこの将棋は86手までで先手の永瀬拓也六段が投了している。