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【相掛かり】基本定跡から最新型まで。相掛かりの狙いと仕組み

世界中の将棋ファンのみなさんこんにちは!編集部のさめはだです。

今回は相居飛車の主要戦法のひとつである『相掛かり』について基本定跡をまとめました!しっかりと定跡を覚えていくのである!

相掛かりの基本〜駒組み編〜

相掛かりの基本⑴相掛かりのスタート地点

相掛かりの戦型は、お互いに飛車先の歩を伸ばし合い、☗7八金☖3二金と金を上がったところがスタート地点です。ここで先手はすぐに☗2四歩と突いていく指し方もありますが、現在は一度☗3八銀と上がる手が主流となっています。

相掛かりの基本⑵☗7八金を省略する仕掛けは成立するか?

相掛かりの駒組みで☗7八金を省略して仕掛けるとどうなるでしょう?これは通称『五手爆弾』と呼ばれる仕掛けで、知っている人もいると思います。仕掛けの成否はと言うと、正確に対応されると先手が不利。AIの評価値的に見ても後手に+300点ほど振れる。

相掛かりの基本⑶飛車先の歩交換の前に☗3八銀と上がる意味

現代の相掛かりでは、先手は飛車先の歩を交換する前に☗3八銀と上がる指し方が主流です。この手の意味は難しいものですが、簡単に言ってしまうと『あなたが先に飛車の引き場所を決めて下さい』と言う意味となります。後手は☖8六歩と交換に行くか、先手に追随して☖7二銀と上がるか。

相掛かりの基本⑷後手も☖7二銀と上がっておくのが主流

先手の☗3八銀に対しては、後手も追随して☖7二銀と上がっておく手が主流です。代えて☖8六歩☗同歩☖同飛☗8七歩☖8四飛と進める指し方も普通ですが、先に飛車の引き場所を明示するのは作戦の幅を狭めてしまいマイナスでもあります。2018年頃からはこの☗3八銀☖7二銀と上がる局面が基本図として定着しています。

相掛かりの基本⑸現代基本図から一番人気の☗9六歩

お互いに銀を上がった現代流の基本図から先手は☗9六歩と9筋の端歩を突く手が主流です。何が最善手か難しい局面で、☗9六歩の他にも①☗1六歩、②☗5八玉、③☗6八玉、④☗7六歩などさまざまな手が指されていてどれも一局の将棋です。

相掛かりの基本⑹『端歩の関係』1筋と9筋の端歩は突いた方がいいの?

端歩の関係は複雑で深い。相掛かりを指す方は盤面を前に考え込むよりも『両方突く』『角側だけ突く』などと、最初から方針を決めておいた方が時間の節約になるのでおすすめです。プロの公式戦ではお互いに角側だけ突く☗9六歩☖1四歩型が最も多く、次に多いのがお互いに両端を突き合う形です。

相掛かりの基本⑺『玉の位置』☗5八玉型と☗6八玉型はどちらがいいのか?

相掛かりは自由度の高い戦型です。玉を上がる位置は☗5八玉型(☖5二玉型)と☗6八玉型(☖4二玉型)がある。☗5八玉型は将来☗6八銀と中央に銀を使えるバランス型。☗6八玉型は☗8八銀〜☗8七銀と銀冠を目指せるなど発展性があるのが特徴。プロの公式戦では☗5八玉型が60%、☗6八玉型が40%程で、先後問わず中住まいの方が若干人気がある。

相掛かりの基本⑻右銀の使い方で作戦は決まる

相掛かりは右銀の使い方で方針が決まってきます。①棒銀、②早繰り銀、③腰掛け銀が基本の3手段で、他には☗4七銀型(図)に構える指し方も最近は多くなっています。最近のプロの公式戦では☗4七銀型を目指すことが多い。

相掛かりの歴史

【相掛かりの歴史⑴】黎明期の相掛かり戦法(1920年頃〜1940年代)

相掛かり戦法は江戸時代の末期に開発された戦法。昭和初期に活躍した木村義雄十四世名人の時代には一大ブームを巻き起こしました。初期の相掛かりはお互いに5筋の歩を突く形が一般的でした。5筋の位を重要視する当時の将棋観の現れであると見て取れる。

【相掛かりの歴史⑵】相掛かり腰掛け銀の登場(1940年代後半〜)

1940年代の後半になると相掛かりに新しい指し方が登場します。☗5六銀と中央に銀を繰り出す『相掛かり腰掛け銀』です。お互いに腰掛け銀に構えた形から☗4五銀とぶつける形は『ガッチャン銀』と呼ばれ、さまざまな将棋で指されました。

【相掛かりの歴史⑶】ひねり飛車の流行(1964年〜1970年代)

ひねり飛車は、相掛かりの出だしから飛車を7筋〜8筋に移動して使う振り飛車感覚の作戦です。大正生まれの棋士丸田祐三九段が得意とされていて、1960年代〜1970年代に掛けて流行していました。将棋に必勝戦法があるとすれば、それはひねり飛車だと言われたこともあるほど優秀な作戦でした。

【相掛かりの歴史⑷】塚田スペシャルの誕生(1986年)

1986年には塚田泰明九段が発明した『塚田スペシャル』が誕生します。横歩狙いを主軸とした初めての戦法で、1991年までの5年間に渡って流行を巻き起こしました。現代相掛かりの基本とも言える『2筋の歩を再度合わせて横歩を取りに動く』を最初に体系化した作戦でした。

【相掛かりの歴史⑸】中原流☗3七銀戦法の登場(1990年頃)

中原流☗3七銀戦法は、中原誠十六世名人が得意とされていた作戦です。相掛かりでは腰掛け銀が主流だった時代に、中原十六世名人が開発して高い勝率を上げたことで注目されました。中原流は玉の囲いはシンプルに済ませ、☗3七銀〜☗4六銀と進出して攻撃形を整えます。

【相掛かりの歴史⑸】☗2八飛+☗3六銀型の流行(2000年頃〜2015年頃)

2000年頃になると、先手相掛かりに大きな変革が訪れます。先手は従来の☗2六飛型に代えて、☗2八飛と飛車を深く引き上げる指し方が主流となったのです。☗2八飛型の攻撃形は、☗3八銀〜☗2七銀〜☗3六銀と素早く銀を繰り出す『引き飛車棒銀』が主軸。2015年頃までは先手番相掛かりのエース戦法として指されていました。

【相掛かりの歴史⑹】飛車先の歩交換は後回しの時代(2016年頃〜現在)

飛車先の歩交換は急がないのが現在流。2016年頃から主流になった考え方で、飛車の引き場所を相手に先に決めて貰いたいと言う意図がある。

相掛かりと言えば、かつては一部の棋士が採用する戦法と言う位置付けで、プロの公式戦では2014年度〜2015年度は年間100局程度しか指されていなかったが、2017年度には200局を超え、2019年度には320局、2021年度には440局も指されるなど歴史的な大流行を迎えている。

昭和〜平成初期の相掛かり

旧型の相掛かり定跡

大正時代中期〜昭和20年頃までに流行した5筋を突き合うタイプの定跡。『5五の位は天王山』という古い格言が示す通り、5筋の位を取られないようにするのが当時の将棋観であった。

新旧対抗型

昭和20年代になると、相掛かりの戦型に腰掛け銀の形が現れる。昔からあった☖5三銀型を旧型、☗4七銀の形を新型と呼び、新旧対抗型の将棋は昭和50年代まで指されていた。

相腰掛け銀

昭和40年代〜50年代に主流だった相掛かり相腰掛け銀の戦型。☗4五銀とぶつけるのが基本的な仕掛けで、銀と銀がガッチャン!とぶつかる様子から『ガッチャン銀』と呼ばれていました。

☗3七桂戦法

昭和60年頃から平成の始め頃に掛けて流行したのが☗3七桂戦法です。低い陣形から桂馬の活用を優先する考え方は現代風である。後手の駒組みに隙があると、すぐに☗3五歩☖同歩☗4五桂と跳ねて仕掛ける筋が生じる。

中原流☗3七銀戦法

☗3七銀戦法は中原誠十六世名人が得意としていた作戦。40代になった中原名人が棋風改造して生み出した作戦である。☗3五歩☖同歩と突き捨てを入れて☗3七銀と繰り出すスピード感あふれる作戦。自玉が薄く指しこなすのが難しい。

塚田スペシャル

塚田泰明九段が発明した塚田スペシャルは、横歩狙いを主軸とした初めての戦法です。1986年〜1991年までの5年間に渡って流行しました。現代相掛かりの基本とも言える『2筋の歩を再度合わせて横歩を取りに動く』を最初に体系化した作戦です。

ひねり飛車の定跡

丸田流☗9七角型ひねり飛車

ひねり飛車の元祖、大正生まれの棋士丸田祐三九段考案の端角上がり。図で①☖8九飛成には☗8八角と竜を閉じ込めるのが狙い。②☖8二飛と引く手には☗7五歩〜☗8六飛とぶつける狙いがある。

ひねり飛車☗8五歩型

丸田流に代わって出てきたのが☗8五歩と打ってから☗7六飛と回る指し方。石田流三間飛車のような攻撃陣に加え、美濃囲いの堅陣で自玉も固い。

大橋流耀龍ひねり飛車

大橋貴洸七段考案の新戦法、耀龍(ようりゅう)ひねり飛車。安定した玉型で速攻を仕掛けるひねり飛車。従来のひねり飛車との違いは何と言っても『☗7八銀型』であるところ。創始者である大橋七段の著書に『大橋貴洸の新研究 耀龍ひねり飛車』がある。

☗2八飛戦法(引き飛車棒銀)の定跡

次は先手が2筋の歩交換後に☗2八飛と深く引き上げる『☗2八飛戦法』を紹介する。以前主流だった☗2六飛型の浮き飛車に比べると飛車が安定しているのが特徴で、2000年頃から2016年頃まではこの手が主流でした。先手の狙いは☗3八銀〜☗2七銀〜☗3六銀の棒銀が主軸。

じっくり戦う☖3三角型

先手の攻撃形は☗2七銀〜☗3六銀と繰り出す棒銀。後手の対策はいくつかあり、その中でもじっくり指したい派におすすめなのが守備重視の☖3三角型です。

☖7四歩型中住まい

☖7四歩型の中住まいは攻撃重視の布陣。次に☖7三桂や☖7三銀と活用できるので積極性が売りです。図で☗2五銀は少し気になりますがこれは単調で、☖7五歩☗同歩☖5四飛ぐらいで後手が良くなる。

銀の出足を牽制する☖8五飛型

先手の棒銀に対して☖8五飛と五段目に飛車を引く指し方も有力です。飛車の横利きで銀の出足を牽制する意図があり、図で☗3六銀にはすぐに☖3五歩と突く手も成立する。

相掛かりの最新型について

☗5八玉型①:相中住まいの同型定跡

お互いに中住まい+引き飛車に構えた相掛かりの同型定跡。ここから☗2二角成☖同銀☗6八銀と進むのがよくある定跡。角交換で先手は手損になるが、☗6八銀と中央に銀を活用できる利点がある。後手は☖2二銀を生かして☖2四歩から銀冠の形を作るのが定跡。2022年の竜王戦七番勝負☗広瀬章人八段ー☖藤井聡太竜王戦では、第3局、第5局と立て続けにこの局面になった。

竜王戦第3局では先手が雁木の形に、後手が銀冠の形に発展している。

第5局では先手が4筋の歩を伸ばし、後手が6筋の歩を伸ばしてから同じように進んで図の局面。

☗5八玉型②:☗中住まい☖4二玉型の同型定跡

先手が☗5八玉型、後手が☖4二玉型で駒組み合いになるとこの局面になる。最近の相掛かりは☖5四銀と腰掛け銀に構えるよりも☖5四歩と突いてバランス型に組む指し方も増えてきている。手損になるが後手はこの後☖5二玉と戻る将棋も多く指されている。

☗6八玉型①腰掛け銀対☖7三桂型

相掛かり腰掛け銀は昔からある作戦。先手番で☗6八玉型を採用する場合、腰掛け銀に組むのが最も多い作戦です。基本的な狙い筋は☗4五銀〜☗3四銀と玉頭の歩を取ること。角交換後に☗8六歩〜☗8七銀と銀冠に組み替える指し方との相性は抜群だ。

☗6八玉型②:後手番の桂損定跡

先手☗6八玉型、後手☖5二玉型の戦型。後手番で横歩を取りにいく積極的な仕掛けを見ていく。先手はここで何もしなければ歩損が痛いので、☗8二歩と打って反撃に出ることになる。当然後手も承知の上で、先手の☗8二歩を誘っているとも言える。

上の図から☗1五歩☖同歩☗2四歩☖同歩と突き捨てを入れてから☗8二歩と垂らす。2021年の名人戦☗渡辺明名人ー☖藤井聡太竜王戦で現れた局面である。☖9三桂と逃げれば桂馬は助かるが、☗8一歩成☖同銀☗2四飛☖2三歩☗8四飛☖8二歩と進み、形を乱される。実戦での藤井竜王の指し手は☖8六飛。

後手は桂馬を損したが、代償として持ち歩の数が多いのが主張。次に☖8六歩と垂らす手が狙いとして残る。従来の感覚では序盤早々桂損では作戦失敗もいいところだが、AI研究が主流の現代の感覚では後手も互角以上に戦える局面なのだろう。

☗6八玉型③:後手☖7四歩型(横歩取らせ定跡)

後手の☖7四歩は大胆な一着。と言うのも、図で☗2四歩☖同歩☗同飛と進むと、突いたばかりの歩が取られてしまうからだ。ウッカリではない。これが後手の狙いなのである。元々は2016年に将棋ウォーズでポナンザが用いていた手法。

☗7四飛は後手の☖7四歩を許さない一番強い手で部分的な定跡となっている。後手は横歩を取らせる代わりに、手得を主張しにいく。

後手は☖7三銀〜☖6四銀と先手の飛車を追って、手順に銀を四段目まで進出することができた。

☗6八玉型③:金銀逆型の堅陣『金冠』

最近の相掛かりでは、金冠に組み替える指し方が部分的な定跡として定着している。通常の感覚ならばあまり良い形には見えないのですが、銀冠に比べると8筋が堅いのが特徴。佐々木大地七段が得意とする作戦で☗6八玉型との相性が良い。

その他の定跡

後手番の村田システム

角換わりの後手番の勝率が著しくないなどの理由により、2023年頃からは後手番角換わりを拒否する思想で村田システムの採用が増えている。渡辺明九段や豊島将之九段も採用するほどなので、後手番の優秀な作戦として認識され始めている。先手の対策としては飛車先の歩を交換した後☗2七銀〜☗3六銀と棒銀にする指し方が有力。

嬉野流

嬉野流はアマチュアの嬉野宏明さんが開発した戦法。2015年に元奨励会三段の天野貴元さんが独自の研究を加えて書籍として発表したことで将棋ファンの間に知られるようになった。初手☗6八銀と上がるのが最大の特徴。この後先手は三手目に☗7九角と引くのも独創的。

極限早繰り銀

初手から☗2六歩☖3四歩☗2五歩☖3三角☗7六歩☖2二銀のスタートから図の局面に進み、極限早繰り銀の基本図となる。佐藤慎一五段考案の攻撃的作戦で、自身の著書に『史上最速の攻撃戦法 極限早繰り銀』『もはや死角なし!進化版極限早繰り銀』がある。

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